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6話 硝子に疑われる俺 ページ7

硝子に屈服させられる。


 俺はニタリニタリという表現がピッタリな硝子の目元に自分の焦点を合わせていった。




「満足ですか」
「唇がひきつってる」
「気のせいでは」




 硝子はゆっくりと俺の顎を離す。さっきの女王様スマイルは消え失せて、無理にしても無駄かという諦念の色が見えた。


 俺は曲がった腰を元に戻して、いつも通りに振る舞おうと決める。なかなか複雑だ。




「私はあるとがやましいことをしていないと信じてもいいんだな」
「はいよ」
「よし」
「……それで、その紙袋のタッパーはなに。まさか晩御飯食べに来ないとか?」
「な、なんで知ってんの!?」




 一気に慌てる硝子。図星かよ。


 俺に言い当てられ、たじたじになっている。紙袋には3つのタッパーが入っていて、唐揚げ、今日の昼食の残りと、きんぴらゴボウが入っていた。そして赤色の水筒がひとつ。多分汁物か何かだ。




「ふ、冬休みは忙しいのであるとの家には行けません」
「そうなんだ。親戚の家に行くとか?」
「違うけど、ちょっと忙しくなる。あるとも私の家来ないでよね」
「……あいよ」




 今度が硝子が俺と目を合わせてくれなくなった。というより、不自然だ。ほんの数cmずつ、後ろに下がって行くのもかなり不自然だ。




「もしかして硝子の方がやましいこと隠してるんじゃないの」
「そ、そんなことないし! 馬鹿じゃないの! じゃあね。あるとは今からバイトでしょ」
「あ! 行ってくる」




 硝子は一瞬笑うと、俺の自転車のタイヤめがけて蹴りを一発ぶちかました。悪戯を考え付いた時の硝子の表情を見たら何も言わずに去るのが俺の中の掟だ。




「遅刻すんじゃないわよ、ばかあると」
「うっせえ。じゃーな」
「頑張んなさいよっ」




 ひらり、と手を振ってやる。正真正銘の馬鹿みたいに大きく腕を振ってくれる硝子を見て、幸せな気分になった。硝子はやっぱり笑顔が似合うって強く思った。途中でぎくしゃくしたやりとりが続いていたが、昔の名人が言ったように最後がよければどうにかなるもんだ。


 俺は冬休みに全く硝子に会えない問題を後回しにすることにした。バイトのことで精一杯になればきっと、硝子に会えない苦渋が紛れるはずなのだ。そう自分に言い聞かせ、ペダルに力を込めた。

7話 兄ちゃんに撫でてもらう→←5話 硝子と五段活用



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設定タグ:オカルト、カオス , ラブコメ , 幼馴染   
作品ジャンル:恋愛, オリジナル作品
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PP - そうだったんですか。お話の展開や一人一人の色んな個性や想いが丁寧に描かれていて、情景が目に浮かぶようです。何故か私の一番思いだすシーンがお母さんが盛塩をフライパンで煎るシーンです(笑)また素敵な作品楽しみにしてます。 (2016年5月19日 17時) (レス) id: e76cee042d (このIDを非表示/違反報告)
レイチェル・ハジェンズ(プロフ) - PPさん» 実はこの作品、レイチェルの家族と、片想いしてる人の家族構成をそのまま持ってきてるんですよね。内容もそれに近付けて、結構重たくしてみました。読んでくださり、ありがとうございます(*^^*) (2016年5月19日 17時) (レス) id: 3a04122313 (このIDを非表示/違反報告)
PP - 追伸☆ごめんなさい!「こんにちわ」のつもりが「こんにちわんだぞ(何の意味だよ)」と…スミマセン! (2016年5月19日 9時) (携帯から) (レス) id: 0625209047 (このIDを非表示/違反報告)
PP - こんにちわんだぞ☆毎日読み進めてましたが続きが楽しみな作品でした。3姉妹が10代にして重過ぎる事情を抱えてても明るく生きる姿に勇気をもらいました! (2016年5月19日 9時) (携帯から) (レス) id: 0625209047 (このIDを非表示/違反報告)
響稀(プロフ) - リクエストの硝子ちゃん完成しました!!サイトにてお待ちしてます! (2016年4月13日 23時) (携帯から) (レス) id: 0a116ef314 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:レイチェル・ハジェンズ | 作者ホームページ:https://twitter.com/seshiru777777  
作成日時:2015年12月14日 20時

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