4話 硝子との食後 ページ5
昼食を食べ終わり、俺はバイトに行く準備をしていた。マフラーと手袋をしてコートのチャックを上げる。一方硝子はと言うと母さんと皿洗いを終えて、
「……硝子ちゃん、もう帰るの?」
「ちょっと用事があって」
「そっかぁ」
玄関へと向かったら、硝子がローファーを履いていた。
硝子の横に並んでスニーカーを手に取る。足を入れたらガバガバで、よく見たら靴紐がだらりと緩んでいた。黒く汚れて所々縮んだりねじれたりして、それが原因で何時もとサイズが違ったんだと推測する。時間に余裕があることを確認して靴紐を全て抜く。
「あるとは今からバイトだったっけ」
「時間もあるし、家まで送ってってもいいけど?」
「ありがと。でもいいから」
「あ、そう……」
いや、別に硝子に断られてショックとか全然ないし! これから俺もバイトだし、友達とその前にワイワイする気なんて全然ないし!
「それじゃ、お昼ご飯ご馳走様でした!」
「あ、おお。じゃーな」
「じゃーねえええ」
にへへ、と男より屈強な笑みを何故か浮かべたまま、硝子は家から出て行った。まるで台風みたいな奴だ、と思う前に凄いことが今更分かった。
硝子がいなくなったら静寂が嘘みたいに広がった。耳に痛いほどの静けさだ。
俺は耐えきれなくなって手を速く動かし、適当にリボン結びを最後にすると勢いよく立ち上がった。
今まで硝子と阿保のように話し込んでいたから、いきなりの静けさに身体が慣れなかったんだと思う。ドアを押して一歩外へ出てから大声で、
「バイトに行ってくるから!」
と母さんに告げた。ドアを後ろ手に閉めて、自転車置き場まで走る。親父の、兄貴の、自分のが丁度入る大きで、屋根で真上からの雨だけが防げる簡易駐車場だ。
「あると、待って」
「……なんだよ」
振り返ると台所の窓から顔を出した母さんが、俺に来てほしいのか手招きしている。うんざりしながらも母さんの方へ歩いて行くと、窓から茶色の紙袋が出てきた。手提げがついているが、また紙袋だ。
「硝子ちゃんに渡すの忘れたのよ。自転車で追いかけて届けに行って」
「それ……、絶対に確信犯としてやってるだろ」
「ほら、行った行った!」
母さんは俺の胸に強引に紙袋を押し付けてくる。俺はそれを嫌々受け取ったが、中身を見て動転せずにはいられなくなってしまった。ふんわりと良い匂いがたちこめる。俺は紙袋が安定するように籠に入れた。
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PP - そうだったんですか。お話の展開や一人一人の色んな個性や想いが丁寧に描かれていて、情景が目に浮かぶようです。何故か私の一番思いだすシーンがお母さんが盛塩をフライパンで煎るシーンです(笑)また素敵な作品楽しみにしてます。 (2016年5月19日 17時) (レス) id: e76cee042d (このIDを非表示/違反報告)
レイチェル・ハジェンズ(プロフ) - PPさん» 実はこの作品、レイチェルの家族と、片想いしてる人の家族構成をそのまま持ってきてるんですよね。内容もそれに近付けて、結構重たくしてみました。読んでくださり、ありがとうございます(*^^*) (2016年5月19日 17時) (レス) id: 3a04122313 (このIDを非表示/違反報告)
PP - 追伸☆ごめんなさい!「こんにちわ」のつもりが「こんにちわんだぞ(何の意味だよ)」と…スミマセン! (2016年5月19日 9時) (携帯から) (レス) id: 0625209047 (このIDを非表示/違反報告)
PP - こんにちわんだぞ☆毎日読み進めてましたが続きが楽しみな作品でした。3姉妹が10代にして重過ぎる事情を抱えてても明るく生きる姿に勇気をもらいました! (2016年5月19日 9時) (携帯から) (レス) id: 0625209047 (このIDを非表示/違反報告)
響稀(プロフ) - リクエストの硝子ちゃん完成しました!!サイトにてお待ちしてます! (2016年4月13日 23時) (携帯から) (レス) id: 0a116ef314 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:レイチェル・ハジェンズ | 作者ホームページ:https://twitter.com/seshiru777777
作成日時:2015年12月14日 20時