37話 ページ38
家に帰って硝子をどの部屋に泊めようかと思ったが――、家の鍵を開けるなり硝子は俺の部屋に直行したところ、どうやら俺の部屋に泊まるらしい。異性と一晩を明かすというニュアンスすら生まれない硝子の無神経さ加減に完敗である。
俺は硝子の脱ぎ捨てたローファーを玄関の隅っこに揃え、長くて静かな溜息をひとつした。半目。鏡があったら自分を殴りたくなるほど情けない表情をしているに違いない。うん。
俺は硝子の漫画本を抱えて自分の部屋へ行った。窓を開ける音が聞こえるので、大分俺の部屋は冷えると思われる。速く退散しよう。
「ねえ、あると」
「なに」
「あるとってサイゼリヤンでバイトしてるんだよねえ。紹介してほしいんだけど」
「お前、バイトすんの?」
「とーぜん」
「なんでいきなり……」
「いーでしょ」
なんでコイツは俺の部屋を熟知してやがる。ギター特集の雑誌の下にある、バイト・パート用の履歴書を早速出してきている。
名前や自分の家の住所、それから志望動機。
「……ほんと、お金のことなら心配しなくていいから」
「なんでよ」
「硝子のことは俺が養うことにしたから」
ああもう、緊張する。あんまこういうこと言わせんな。
「にゃんで」
にゃんでって、そりゃあ好きだからだろ。どーでもいいやつ養ったりしねーだろ。俺は振り返った硝子に無言でいられなくなって、ポリポリと頭を掻いた。猫みたいな綺麗な目を向けられたら照れてしょーがない。
「俺が面倒見ないと死にそうになってるし、なんかほっとけない」
「私が死にそうになってもあるとには関係な」
「あるんだよ、俺硝子と結婚したいと思ってるから」
硝子は恥じらいもせずに、猫みたいな瞳のまま余計に首をかしげた。ああもう、なんでこんなに馬鹿な女好きになっちゃったんだろう。気持ちを察してくれる良い女はいっぱいいるだろうに、よりによってこんな奴。
「なんであるとが私と結婚したいって思ってるの。意味わかんない」
陽の光に当たると亜麻色に反射して一段と大人っぽくなるところ。一般人とは思えないくらい目鼻立ちが整っていて、ニキビがひとつもないつるりと肌をしている。ごくり、喉が鳴る。
「そ、そんなの知るか」
胸はあまねちゃんほど大きくないし、華奢なせいか太ももにすら肉ないけど。
なんでこんな奴好きになったんだ俺。
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PP - そうだったんですか。お話の展開や一人一人の色んな個性や想いが丁寧に描かれていて、情景が目に浮かぶようです。何故か私の一番思いだすシーンがお母さんが盛塩をフライパンで煎るシーンです(笑)また素敵な作品楽しみにしてます。 (2016年5月19日 17時) (レス) id: e76cee042d (このIDを非表示/違反報告)
レイチェル・ハジェンズ(プロフ) - PPさん» 実はこの作品、レイチェルの家族と、片想いしてる人の家族構成をそのまま持ってきてるんですよね。内容もそれに近付けて、結構重たくしてみました。読んでくださり、ありがとうございます(*^^*) (2016年5月19日 17時) (レス) id: 3a04122313 (このIDを非表示/違反報告)
PP - 追伸☆ごめんなさい!「こんにちわ」のつもりが「こんにちわんだぞ(何の意味だよ)」と…スミマセン! (2016年5月19日 9時) (携帯から) (レス) id: 0625209047 (このIDを非表示/違反報告)
PP - こんにちわんだぞ☆毎日読み進めてましたが続きが楽しみな作品でした。3姉妹が10代にして重過ぎる事情を抱えてても明るく生きる姿に勇気をもらいました! (2016年5月19日 9時) (携帯から) (レス) id: 0625209047 (このIDを非表示/違反報告)
響稀(プロフ) - リクエストの硝子ちゃん完成しました!!サイトにてお待ちしてます! (2016年4月13日 23時) (携帯から) (レス) id: 0a116ef314 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:レイチェル・ハジェンズ | 作者ホームページ:https://twitter.com/seshiru777777
作成日時:2015年12月14日 20時