16話 投げつけられたパンのことは言わない ページ17
☆ side あまね☆
「硝子、さっき梢ちゃんも言ってたけど……」
「来ないでって言ったのに」
「そんなこと言わないの。あるとくん、心配してるんだよ、きっと」
硝子は一瞬ほっぺたをハリセンボンみたいに膨らませた。硝子のこういうところ、ほんと鈍い。私は部外者だからふたりの関係については深く突っ込めないけど。
硝子がZERAの真っ白なマフラーを身に着けて帰って来た時、進展があったのかと期待した。でも私の前でも緊張しているようではそうもいかないだろうけど。
「ふたりとも、お風呂上がったからどっちか入っちゃって」
「じゃあ私が入る。硝子も今日はそこまでにしといたら」
「あと……、このページだけ終わらせる」
硝子の白くてもちもちしたほっぺたを、ぐーんにゃりとつねる。硝子が赤ちゃんの頃からやっていることで、「可愛いね」とか褒める時にやってしまう。梢ちゃんはお気に召さなかったようで、たまーにしかさせてもらったことないけど。
硝子は引っ張られた頬を摩りながら【入試問題】にとりかかった。私が過去に買った大学の入試問題や、自分のお小遣いで買った入試問題がリビングルームの絨毯に広がっている。
消しゴムの跡が残るノートの端切れ、リングでとめられた暗記英単語帳、答えを隠す赤色の下敷き、――。
硝子は私と一緒の同じ大学に行きたいらしいのだ。
長野県にある大学の教育学部。
「梢ちゃん、ごめんだけど硝子のこと見てあげてくれる？」
「別にいいけど」
☆ side 梢 ☆
口を半開きにさせて、重そうな瞼をゆっくりと上下させている。かろうじて起きている状態なのだろう。私は絨毯の何も落ちていないスペースに腰を下ろし、ノートを半分を埋め尽くしている方程式を見やった。
冬休みに入ってから硝子は勉強ばっかりだ。つい最近の妹は靴下に泥をつけて帰ってきて、プラスチックのコップに蜘蛛の巣だらけのセミの抜け殻を入れるような子供だったのに。
「梢、お姉ちゃん」
「なによ」
「私もバイトして塾に行こうかな」
「は……？」
「あまね姉ちゃんも受験近いし、本当は私の勉強みてる時間もないよ……。パパは生活費はくれるけど、塾の月謝はくれないし」
「……アンタの好きにすれば」
硝子は目元と口元に力のない笑みを浮かべると、まどろみの中で方程式を解き続けた。
17話 投げつけられたパンを食してバイトに行く→←15話 投げつけられたパンを受け取る
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
PP - そうだったんですか。お話の展開や一人一人の色んな個性や想いが丁寧に描かれていて、情景が目に浮かぶようです。何故か私の一番思いだすシーンがお母さんが盛塩をフライパンで煎るシーンです（笑）また素敵な作品楽しみにしてます。 (2016年5月19日 17時) (
レス) id: e76cee042d (このIDを非表示/違反報告)
レイチェル・ハジェンズ(プロフ) - PPさん» 実はこの作品、レイチェルの家族と、片想いしてる人の家族構成をそのまま持ってきてるんですよね。内容もそれに近付けて、結構重たくしてみました。読んでくださり、ありがとうございます(*^^*) (2016年5月19日 17時) (レス) id: 3a04122313 (このIDを非表示/違反報告)
PP - 追伸☆ごめんなさい！「こんにちわ」のつもりが「こんにちわんだぞ（何の意味だよ）」と…スミマセン！ (2016年5月19日 9時) (携帯から) (レス) id: 0625209047 (このIDを非表示/違反報告)
PP - こんにちわんだぞ☆毎日読み進めてましたが続きが楽しみな作品でした。３姉妹が１０代にして重過ぎる事情を抱えてても明るく生きる姿に勇気をもらいました！ (2016年5月19日 9時) (携帯から) (レス) id: 0625209047 (このIDを非表示/違反報告)
響稀(プロフ) - リクエストの硝子ちゃん完成しました!!サイトにてお待ちしてます！ (2016年4月13日 23時) (携帯から) (レス) id: 0a116ef314 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：レイチェル・ハジェンズ | 作者ホームページ：https://twitter.com/seshiru777777
作成日時：2015年12月14日 20時
