三十九 ページ41
「か、カンタン、な本です、か?」
『はい。うんとカンタンで、猿でも分かるようなの』
膝をつき、その子と同じ目線を共有してから返事した。私は害を与える存在じゃないよ、大丈夫だよ、なんて甘えた下心なんか持ち合わせていない。あくまで対等でいたいのだ。
私は、あなたの知っていることが知りたい。
ただそれだけ。
「じゃ、じゃあ、忍たまの友を、どうぞ…」
『これかな?』
おずおずとしたその視線を追って、彼が選んでくれた本を取ってみる。頷く彼にお礼を言いつつ、質問をした。
『ありがとう。これは一年生に配られるんですか?』
「は、はい。それで、忍術の基礎を学びます」
慣れたのか、小さな自信が生まれたのか、彼は数秒前よりもハキハキと喋ってくれた。
『なるほど。それはとても素晴らしい教材ですね』
「す、すばら?」
『これが、この学園の生徒の今を形造る土台になっているんですから、この教材はとても良いということです』
再度しっかりとお礼をし、貸し出しの机に向かおうとした時、声をかけられた。
「あ、あの…天女様は、忍術を使って何をする、おつもり、です、か…?」
まっすぐ彼を見つめすぎたせいか、だんだんと当初の勇気がしぼんで行く様子が、ボリュームダウンしていく声色から不憫なほど見て取れた。
しかし私は彼の勇気に拍手を送りたい。
他の生徒がコソコソとしてバカバカしい噂をねつ造している中、彼はそいつらを遥かに凌駕する行動を起こしたからだ。
『私はここに来て、忍術と言うものに興味を持ちました。知らないことを知りたい。学びたい。その知的好奇心だけです。何かを起こそうとかは一切考えていませんよ』
彼が知りたいことを私は教えてあげたい。
その思いから、私は彼の質問に真っ当に答えた。その中には、彼に対するお礼もあったけれど。
「期限は2週間です。忘れないで返しに来てください」
『分かりました。ありがとうございます』
先程のことに戸惑いつつも、厳格な意志を持って私に本を貸してくれた二年生が微笑ましかった。
それにしても、私のことを監視している誰か。
どうか、私の学びを邪魔しないでくれよ。
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まる(プロフ) - いおらんさん» ありがとうございます!コメントとても嬉しくて励みになります! (2019年8月2日 19時) (レス) id: 3f7caaff83 (このIDを非表示/違反報告)
いおらん(プロフ) - とても話が好みで楽しく読ませてもらってます(^^)更新頑張ってください! (2019年8月2日 12時) (レス) id: 60ac9a4c80 (このIDを非表示/違反報告)
まる(プロフ) - 桜ノ夢さん» ありがとうございます!初めての作品なのでとても緊張しながら書いているのでとても嬉しいです。タイトルについてはこれからのストーリーをお楽しみにしていてください! (2018年11月18日 19時) (レス) id: 3f7caaff83 (このIDを非表示/違反報告)
桜ノ夢 - まるさん!この作品とても面白いですね!私、これ読んだ後、「ふぅ〜面白かった…な…え!?何この題名!?夢主消えるの!?」って思いましたから← (2018年11月13日 22時) (レス) id: 3556d0a5e0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まる | 作成日時:2018年11月13日 21時