満月 ＿BakareA

A visitor ページ23

(来客)





休み時間。




お手洗いに行こうと廊下に出たら。






先「お、川上。」






と呼び止められた。




くる、と振り返ると。






先「ちょうどいいところに出てきてくれた。


　 これ、資料室に運んできてくれ。」





と、手に持っていた沢山の紙束を私に渡す。





貴「え、今からですかっ。」




先「あぁ、授業遅れてもいいから。」








そう言い、先生は去っていく。




これ、仕事放棄じゃない。完全に。








私は渋々、資料室に向かう。




・








・




資料室なんて、誰もいかない。




人気のない廊下を通って。


薄汚れた資料室の中に入っていく。






机の上に持っていた荷物を置いて。



ふと、横を見ると。







貴「…あ。」





大「……‥ん。」








ソファで京本さんが横になっていた。





誰かと思えば…。







大「誰かと思えば、お前か。



　 折角寝てたのに。」







だるそうに起き上がる京本さん。






貴「あ、いえ、全然寝てて構いません‥っ。


　 私は失礼します。」







私が教室から出て行こうとしたら。







大「待てよ。」








と、私の腕を引き。





ソファに座らせる。









何とも強引。









渋々座ると、ソファ全体から京本さんの体温を感じる。






そして、甘い香りも。









座っても、何も喋らない京本さん。






私はすることがないので、その美しい顔を眺めてみる。









と。









大「初めてだった？」







と、私を見ずに。



ただそれだけぽつりと呟く。







貴「…え。」






大「キスも？」








ゆっくりと私を見る。





その目に、捕らわれてしまった。








動くことが、できない。








大「あ、キスは経験済みか。


　 そういえば先客がいたな。」








そう言って。


ふふ、と嬉しそうに笑う京本さん。






何が、そんなに楽しいんだろう。









不思議に思い、見つめるだけの私。









京本さんは不思議な人だ。








けど、ちょっと気さくな方。

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