【猿】てんちょうさまさま。【実.況.者】 (ページ1)

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店長は、おバカさんページ1

中で料理の下拵えをしていたらカウンターの方から聞こえた何かが割る音と、息を吸いながら発せられた悲鳴。私の隣で手を動かしていた人はまたか、なんて呟きながら私に目線を寄越した。
仕方なく手を洗ってカウンターに出ると、予想していた通り割れたグラスと悪いとは思っていないような、笑顔を見せるこのお店の店長さん。視線はずっと割れたグラスに向けられている。私が近付けば気付いたらしく、これまた純粋そうな笑顔を、今度は私に向けた。

「割ってもうたわ」

「今月何回目なんですか店長」

呆れたようにため息を吐く私に、店長はすまんのー、だなんて。店長も悪気があってしている訳じゃないから、強く言う事も出来ず。もう一人の店員から私に新聞紙を渡してくれたから店長に奥の部屋に行くように促す。
割れた破片で手を切らないよう注意して片付けて、最後に掃除機を使って吸い取った。掃除機が切れた音を聞いたのか奥から店長が顔を覗かせる。邪魔にならないようにと気を使って店長と一緒に奥へ行った店員に怒られたのか、どこかしょぼんとした顔をしている店長

「A、ホンマにすまん！」

土下座をする勢いの店長がどこか可愛らしくて、思わず笑う。大丈夫ですよ、と安心させるように言えばいつも見せてくれる笑みに変わった。八重歯を見せて笑う笑顔に、どれだけの視聴者を魅了させたのか。私もその一人なんだと自分で自分を嘲笑った。
スーパーの袋に入れた新聞紙に包んだ破片を外のゴミ箱に捨てて、作業に戻ろうとすると、既に終わってしまったのか中にいた店員がカウンターに出てきた。

「ごめんなさい！」

「大丈夫やから気にせんでええよ」

暖かい手で頭を撫でられて、申し訳ない気持ちが増してしまう。もう一度謝るとこの話は終わりと切られてしまった。そしてお疲れ様と言われるのだから、この人の包容力は侮れない。ごめんなさいの代わりにありがとうございますと言うとそれ以上の言葉はなかった。

もうすぐ開店する。たくさんのお店が並ぶここはネオンの光が明るくて目を細めてしまう。すぐ近くにも同じお店があるけれど、店長に会いたくてこちらのお店までくるお客様がほとんどで、流石公式にお呼ばれするほどの人気だなぁと身をもって感じる。
お店でもう一人女性店員はいるけれど、今日は向こうのお店にお手伝いとして出ていってしまった。

「開店すんでー！！」

店長のその声を聞いて、今日もいつも通りにと気合を入れてエプロンを結び直した。