51☆弁護士 ページ1
降りそそぐセミの声が熱い空気をかき混ぜて、さらに気温を上げているようだ。
研究所の中でエアコンの心地よい冷風をあびながら、Aは窓の外の雲一つない空を見上げた。
Aの視界をアゲハ蝶がひらひらと横切っていく。
日美子が階段を降りてくる足音が聞こえて、
Aは視線を前に向けた。
「あれから、今回の事件についていろいろと調べました。その結果についてご報告します」
「どーぞ……」
ため息をつくようにそう言い、うちわで自身を扇いでいる所長に、Aが声をかける。
「どうしました所長？
興味なさそうですけど」
「だって、裁判とか証人とか、
そんなことについてでしょ？
正直言って、ボクはどうだっていいなぁ……」
足を組み、椅子の背にもたれかかり、全く聞く気のない所長を気にもせず、日美子はファイルを取り出した。
「では、報告します。
消えてしまった三田伸也さんですが、
彼が目撃者として出た裁判で、犯人側の弁護士が、かなり激しく伸也さんを問いつめてきたようです」
「伸也さんは、どんな事件を目撃したんですか？」
所長とは違って興味津々のAが机に身を乗り出すと、日美子は答える。
「ひったくり事件よ。
弁護士は伸也さんを嘘つきと決めつけ、
犯人は無罪だと、主張していたそうです。
弁護士の名は、
「そりゃ、依頼人の無罪が弁護士の目的だからな……証人を問いつめるのは、当たり前じゃないのか？」
そう言いながら、
所長はアイスコーヒーに手を伸ばした。
「もちろんそうです。しかし……」
日美子は、別のファイルを取り出す。
「もう一件、別の消失事件があるのですが」
「うん？そうだな……
似たような事件が多発してるらしいね」
所長がアイスコーヒーを口に運ぶと、
日美子は話し続けた。
「本木一朗という人が、
ショッピングセンターから消えた事件なのですが……」
「一朗……？それって、スリの被害者の？」
店長の話を思い出したAが訊くと、
日美子は頷く。
「そうそう、それ！
スリの犯人とされている人を弁護しているのも、
山田弘なの」
「なに……？」
やっと興味を持ち始めた所長を見ると、
日美子はファイルから地図を取り出して机に置いた。
「しかも山田弘の事務所は、
ゲームセンターのすぐ近くなの」
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作者名：惠里子 | 作成日時：2019年7月30日 19時
