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彼の背中に私も腕を回して、ポンッと背中を叩いた瞬間、スっと体を離されて、肺と口が開放された。
さっきまで少しも離しそうに無い様子だったにもかかわらず、呆気なく両肩を押され、私は従って1歩後ろに下がる。
どうしたのかと彼を見上げると、手の甲で口元をおさえた安室さんに目を逸らされた。
「え、」
「いえ、なんでもありません。すみません急に抱き締めたりして」
「あ、いえ…」
急な不自然な対応に首を傾げる。
背中に手を回したのが気に触ったのだろうか。破顔…とまではいかなくとも、表情をコロコロと変える安室さんが珍しくてつい見つめてしまう。
いや、安室さんの時はいつも表情豊かか。でも、今の彼は安室さんでもあるが、ここに駆けつけたということは公安を指揮した降谷さんでもある。
珍しいこともあるものだ。
「なんでもないです本当に。あっちに車を停めているので移動しましょう」
「あ、キャリーケースは私が…。杖代わりなので」
「わかりました、段差気をつけてくださいね」
ただの移動にも気遣うこの紳士ぶり。
どこへ移動するのか検討もつかないけれど、まだ背後の百貨店の方から沢山の人の声が聞こえてくるので、素直について行くことにした。
少し歩くと、言われた通り車が停められている。
以前見かけた、白いかっこいい車だ…なんて陳腐な感想しか述べられない己の語彙の弱さと知識の少なさに呆れる。確か国内で美しいとされるその個体。
生憎車には詳しくないが、とてつもないスポーツカーであることは分かる。それを乗りこなす安室さんは、やはり流石というか、高級車に負け劣らないほどかっこ良い。
案外広いトランクにキャリーケースを入れてもらって、安室さんが扉を開けてくれている助手席へと乗り込んだ。
「大荷物ですね。住むおうちは見つかりましたか?」
「…あ"っ、」
「やっぱり」
運転席に回りこみ、シートベルトを付けた安室さんに問いかけられて、私は喉の奥からカエルの潰れたような声を出した。
今の私には恥ずかしさよりも、突然のトラブルのせいで本来の計画が全て水に流されたことの方が大きなダメージだった。
時計を確認し、行こうと思っていた不動産屋さんがあと15分で閉まってしまうことに今気づく。
ひったくりに立てこもり事件に…問題を解決したばかりだと言うのに、新たな問題がまた浮上した。
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あまね(プロフ) - いっそのこと一妻多夫制度設けません???? (8月19日 18時) (レス) @page48 id: 2b125e9969 (このIDを非表示/違反報告)
TAKE - 面白いですね!続き楽しみにしてます!頑張って下さい!! (7月2日 12時) (レス) @page48 id: 20d3cc00b9 (このIDを非表示/違反報告)
かるぴん(プロフ) - 面白すぎて一気読みしました!続きが気になりすぎます!! (5月10日 5時) (レス) @page48 id: e2b715c702 (このIDを非表示/違反報告)
お話仕掛け人(プロフ) - ココナッツさん» お話楽しんでいただけて嬉しいです!感想もありがとうございます。これからの励みになります! (2023年5月4日 12時) (レス) id: 8b74387362 (このIDを非表示/違反報告)
ココナッツ(プロフ) - 初コメ失礼します!ふるや違いで平凡とは言えない生活を送ることになった主人公ちゃん…物語の流れに引き込まれ一気読みしてきました笑 最高に大好きな物語です´`* これからも応援してます! (2023年4月28日 12時) (レス) @page42 id: 160792ee1b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お話仕掛け人 | 作成日時:2022年8月10日 17時