20:序曲 ページ20
.
カツカツ…と早歩きで進むヒールがアスファルトを蹴る。
側から見たらきっと、出勤時刻に遅れそうで急いでいる
ただのOLにしか見えないだろう。
.
頭の引き出しにしまってあった最大限の情報をスマホのマップに打ち込み、案内される電車に飛び乗る。
文明の利器によって導かれた、大通りから一本入ったところにある白いアパートビル。
エレベーター横に書いてあるフロアを見てボタンを押す。もっと震えているかと思った指先は、自分が思っている以上に冷静だ。
透明なドアを開けると、ヒールが床で音を鳴らす。アスファルトよりも高い音。
.
その音で驚いた顔をしながら
だけどどこか私のことを待っていたかのような表情をしながら振り返った貴方の目とあった瞬間
.
頭の中に少しだけ…ほんの少し残っていた迷いが消しゴムで消されたように去った。
.
雅紀「……A、ちゃん？どうして…」
「……知ってたの？」
.
華道のイメージとは少し違う、一フロア丸々使われた白い部屋。
そういえば何時ぞや「今はモダンな生け方勉強してるんだ」と言っていたね。
.
.
貴方がパチン！と切り落とした茎が、その白い海の上に落ちる。
.
.
雅紀「…知ってたよ」
.
そう。きっと雅紀くんは知っていた。
智くんの隠していることも、それを私は知らないことも。
けど、もうそんなことはどうでもいい。
.
「…雅紀くん」
.
.
「ーーー…私を地獄に連れて行って」
.
.
今目の前に貴方がいる。その事実だけでいい。
.
いいの？
そう呟いて手に持っていた花を生けた貴方の手を握りしめても、
私はきっと後悔はしない。
.
雅紀「Aちゃん」
.
雅紀「地獄なんかにはさせないよ」
.
.
"俺が、楽園にしてあげる"
.
.
迷わず握った手に引かれて飛び乗った車のエンジン音は
到着地不明の逃避行の序曲にすぎない。
.
どこまでも、堕ちよう。二人で。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 195人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：みい | 作成日時：2016年12月3日 21時
