10話・友達 ページ12
一瞬だけ、世界が止まった気がする。こうして生きているのが、彼と私の2人だけになったかのような錯覚。
意外にも、抱きしめた体は柔かった。そして、どことなく心細い。
心「なっ…に、して…」
貴「…私もよくわかんないわ」
どうして抱きしめたんだろう。でも、こうでもしないと、あの「冷たい悲しみ」に、彼が連れていかれてしまいそうで。きっとその奥は、また想像もできないほどの孤独である気がする。
心操くんは狼狽えた。先程までの陰鬱な雰囲気はどうしたというのか、ここにいるのはただの幼い高校生だった。
心「わかんないって…あの、さ、俺…いくらでもお前なんて操れて」
貴「だから？」
心「…普通、近付きたくないって思うだろ…」
貴「わかった、怖いんだ、心操くん」
心「は、はぁ？」
さっきから素っ頓狂な声をあげてばかりの心操くんは、もう怖さなんて微塵も感じられなかった。あれは、きっと彼の最大限の「強がり」だ。
貴「人と距離を詰めるのが怖いんでしょ。“個性”を知られて、離れていかれるのが怖いんだよね。だから、それなら初めっから遠ざけていればいい。繋がりを持たなければ、期待しなければ、それ以上もそれ以下もないから」
それは、とても寂しいことだろう。でも、きっと彼はそうするしか無かったんだと思うと、どうにもやりきれない。
確かに、洗脳だなんて一見すれば怖いと思うのは仕方ないのかもしれない。現に私も、少し戸惑った。でも、違うよね。
あの深い悲しみの味も、今までの怯えも不安も、私には分かったから。彼の「本心」が。隠そうと必死になっていた「温もり」が。
自分の“個性”を、私は今、生まれて初めて悪くないなんて思った。これがあったから、彼を抱きしめることができて、それで。
心「バカだろお前…何知ったようなこと言ってんの…俺なんて、くそ…なんだよ、くそっ…」
心操くんはゆっくりと目元をこする。すると、手の甲に露のようなものが乗った。それは、呆れるほどキレイだった。
貴「…泣かないでよ」
心「泣くわけないだろ、なんで、泣かなきゃいけないんだよ…わけわかんない…」
貴「じゃあ、心操くんが泣き止むように、私があなたから離れないって誓約を作るか」
心「だから、泣いてないって…」
貴「ね、友達になろう」
私は笑った。
心操くんは泣いたままだったが、最後に小さく頷いてくれた。
強がりの仮面が、パラパラと欠けていくような音がする。
はじめまして、これからよろしく。
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づけしば(プロフ) - 初恋とリンゴさん» コメントありがとうございます！心操くんほんといいキャラしてますよね…！何とか幸せにしてあげたいです (2017年8月2日 8時) (
レス) id: a5f73b5f12 (このIDを非表示/違反報告)
初恋とリンゴ(プロフ) - 作品面白いです(*^^*)心操君好きです。幸せになって欲しい(*´∀｀) (2017年7月31日 7時) (レス) id: 1696434808 (このIDを非表示/違反報告)
づけしば(プロフ) - 菜血さん» コメントありがとうございます！しばらく更新忘れててごめんなさい；切ない心操くん大好きなのでそう言っていただけると嬉しいです。更新頑張ります！ (2017年7月10日 16時) (レス) id: a5f73b5f12 (このIDを非表示/違反報告)
菜血(プロフ) - 初めまして。描写が綺麗でとても好きです。心操くん切ないですね、。更新頑張ってください！応援してます！ (2017年7月10日 6時) (レス) id: b16163533c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：づけしば | 作成日時：2017年6月7日 13時
