仕立て*2 ページ36
「ところで鬼龍殿」
不意に神崎先輩は本題を思い出したらしく「頼まれていた糸はこれで当っているだろうか?」と刺繍糸を鬼龍先輩に差し出す。
「おう、ありがとよ神崎、これで間違いないぜ。お使いなんて頼んで悪ぃな」
「いやなに、我が手伝いたいと自分から申したのだ。そう気に病むことではない」
会話を聞く限り、この糸や裁縫セットは鬼龍先輩の私物だろう。それにしても、どうしてこんなものを持ってきたんだ?
そういえば、神崎先輩の登場に驚いて忘れてしまっていたけれど、何かそのとき先輩が言っていた気がする。俺の衣装を準備するため、蓮巳先輩から招集されたとかなんとか。
「えっ、ということは鬼龍先輩って洋服とか仕立てられるんですか!?」
「いきなりどうしたんだ?まあプロ並みにとまではいかねぇが、人並み以上にはできるから安心してくれて構わねぇよ」
凄い。つむぎ先輩もそうだけれど、手先が器用というイメージがなかった。どちらかというと、破壊専門かと思ってたし。
「鬼龍は他のユニット衣装も頼まれて制作しているし、こういうことには持ってこいの人物だ」
「は、蓮巳先輩!?驚かせないでくださいよ!」
「失礼な。俺はきちんとノックをしたし、貴様らが話に夢中になっていて気づいていなかっただけだろう」
いつの間にか近くに来ていた蓮巳先輩は、ムッとした顔で俺を見下ろす。
今までどこへ行っていたのだろう。なぜか英智さんもいないし。そのことを蓮巳先輩に伝えれば、今での経緯を簡単に説明してくれた。
「俺はこれから準決勝のライブを行う英智と共に講堂まで向かっていたんだ。警備体制を確認していたから戻ってくるのに時間をくってしまったが……」
「準決勝かぁ、噂には聞いてましたけど英智さんって本当に凄いアイドルなんですね!」
fineは学院内でトップらしいし。知り合いのユニットが勝ち進んでいるなんて、自分のことじゃないけど鼻が高い。
「それよりも、まだ準決勝が行われていないからといって時間に余裕があるわけではない。鬼龍、難しいことを言うようですまないが、できるだけ急ピッチで衣装を仕上げてくれ」
「おうよ。……というわけだ、A。早速衣装作りに取り掛かるから、元となる衣装をこっちに寄越してくれ」
「あ、はい。これなんですけど、できそうですか?」
綺麗に折りたたまれた衣装を差し出すと、鬼龍先輩は感心したように生地を触る。
「こりゃまた上質な布じゃねぇか。久々に腕が鳴るな……♪」
とても楽しそうに針仕事に取り掛かる鬼龍先輩に、俺はどんな衣装ができるのか完成を心待ちにした。
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koeno(プロフ) - めっちゃ面白かったです!!素敵なお話をありがとうございました!もし続編を書かれるのであればぜひパスワードを教えていただきたいですー!! (4月7日 0時) (レス) @page49 id: 3ec6efc790 (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - 続編みたいです! (4月2日 17時) (レス) @page49 id: 54e2cad7a6 (このIDを非表示/違反報告)
0nm3264922j626v(プロフ) - 続編めっちゃ読みたいです!是非!お願いします! (4月1日 20時) (レス) id: 203b2c7fc8 (このIDを非表示/違反報告)
ただのヲタク(プロフ) - 続編読みたいです!すごく楽しく読ませてもらいました! (3月30日 9時) (レス) @page49 id: 9a68619e2b (このIDを非表示/違反報告)
ダイ - もう、めちゃくちゃ面白かったです!受験勉強後回しにして(?)2日で読み終わりました!ぜひ!続編読ませて欲しいです! (2月26日 23時) (レス) @page49 id: aa1dedb486 (このIDを非表示/違反報告)
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