追憶*魔王の権謀術数*1(Noside) ページ35
話を遡ること数週間前。
Aがテニス部に初めて体験入部をしに行った日の晩のこと。その日は月明かりが妖しく夢ノ咲学院を照していた。
軽音部では、その月を眺める男性が一人──この夢ノ咲学院をかつて統治していた魔王陛下であり、自称吸血鬼。彼は肖像画のようにピクリとも動かず、その横顔は物鬱そうに考えに沈んでいた。
そんな中、たったっ、と小刻みのよい誰かの足音が近づいてきて。零は血を垂らしたような紅い瞳をそちらに向ける。
「れい、『そうだん』があります」
ノックをせずに入ってきたのは、戦乱の時代を共に戦ってきた同胞、深海奏汰だ。
零は警戒していた瞳から、ふっと優しげなものに変えた。それと交差するように、学院を照らしていた月は雲に遮られて姿を消す。暗闇が、二人の空間に重く腰を据えた。
「珍しいこともあるもんじゃのう。して、その相談とは?」
「たすけてほしいひとがいます」
「……ほう? それは、おぬしにとって大切な人かえ?」
いたずらっぽい笑みを浮かべて、からかうような声色で問いかける。しかし、それに答える声は、いつになく真剣だった。
「はい。たいせつなともだちです」
「……そうかえ。ならば、助けてやらねばなるまいのう。我輩に出来ることであれば、じゃが。その友達とやらの名前は?」
「……A」
「A……。まさか、城崎Aくんかや?」
その名前を聞いた途端、零の表情が一変する。先ほどまでの余裕たっぷりのものとは違う、驚愕の表情へ。そして、どこか苦しげな表情で頷く奏汰。
それを見て、零は何かを納得したかのように頷いた。
(あの子はどこか危ういところがあったからのう……。純粋であるが故に、悪意に疎い)
思い浮かぶのは、キラキラと純新無垢に微笑む姿。確かに、Aにはそういうところがあった。
自分が傷つくことよりも、他人の傷の方を気にしてしまう。悪意に晒されているくせに、悪意に鈍感である。だからこそ、傷ついてしまう。それが彼の危うさでもあった。
「れいがAをしっているのなら、はなしははやいですね」
「うむ。実は、少し前に彼と話す機会があってのう。……いったい、あの子に何があったのじゃ?」
そう問うと、奏汰は苦々しげな表情になる。
「……きいてしまったんです」
それから、ぽつりぽつりと語り始めた。
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yukki(プロフ) - 続けてくださって嬉しい限りです!これからも応援しながら作者様の作品を読ませていただきます!! (2020年1月11日 23時) (レス) id: c7ca82405e (このIDを非表示/違反報告)
すみぃ(プロフ) - 続けて下さってほんとに嬉しいです!!pixivあんまり詳しくなくて作者様の作品見れるか不安なんですけど勉強します!!これからも影ながら応援しております!頑張ってください! (2020年1月11日 19時) (レス) id: f77c46eafb (このIDを非表示/違反報告)
「なる。」(プロフ) - 作者様の書き方がとても好きですし、凄く読みやすいと感じています。なので、占いツクールでの活動を続けるという決断をなされた事が、凄く嬉しいです。最後になりましたが、更新、楽しみにしながら気長に待ってます。 (2020年1月11日 12時) (レス) id: 61cc988ea5 (このIDを非表示/違反報告)
「なる。」(プロフ) - こんにちは。突然ですが、コメント失礼します。占いツクールでの作品の書き方ですが、台本書きでは無い他の作者様も大勢いますし、現に私も台本書きはしていません。書き方は作者様の自由なので、台本書きでも、台本書きじゃなくても、どちらでもいいと思います。私は、 (2020年1月11日 12時) (レス) id: 61cc988ea5 (このIDを非表示/違反報告)
Tatutatu(プロフ) - この作品とても好きです!続ける決断をなさってくれてとても嬉しいです……! (2020年1月11日 10時) (レス) id: b586c3b914 (このIDを非表示/違反報告)
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