季節の変わり目のそよ風(すきやき) ページ5
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「A…」
清潔に保たれたシンク、涼し気な風があらゆる匂いを外へさらって行く構造になっている、Aと誰かのためのキッチンスペース。
Aがキッチンに立っていると、その誰かが後ろからぎゅう、っと料理をしているAに抱きついてきた。
Aをキッチンで見つけるといつもこうしてAに近づいてくる。
Aは構わず黙々と料理を作るが、次に何を言うのか、わかっている。
「何作ってるか当ててあげよう。俺の好物」
「違うよ」
「ちぇ」
「今日はあなたの嫌いなものが入ってるんだ」
得意げに言ったAに、彼は抱きついたまま私Aの顔を横から覗き込む。
「……いじめ?」
「勿論違うよ」
「じゃあなんで作るの?せっかく手伝おうと思ったのに……やぁーめた」
「やめないで。あなたの嫌いなものでも、私が作ると好きになっちゃうの」
「なーんて。やめるってのは冗談。一緒に作るよ───って……え?」
どういう事かわからなさそうな彼の鼻を、Aはつん、と人差し指で軽く叩く。
「私は料理御侍だよ?私が魔法をかけてあげるの。あなたが食べやすいように」
「…………」
「きっと美味しいって涙流すよ」
Aが言うと、Aの首にまとわりついていたすきやきは微笑んで、Aの後ろからお返しとばかりに自分の鼻先をAの鼻先にくっつけた。
お互い、目を細め、余韻を楽しんでいると、子窓から暖かなそよ風が2人の前髪を揺らした。
すきやきが顔を離すと、至近距離でAに囁いた。
「A、すき」
Aはクスリと笑った。
その後、彼が手に持っていた紙のようなものを見せる。
「これ、何かわかる?」
「私の行きたかった映画のチケット!」
「ご飯終わったら行こうな」
幸せそうなA等を見ているのは、季節の変わり目に差し掛かる頃のそよ風……。
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作者名:月石 | 作者ホームページ:https://plus.fm-p.jp/u/moonstone
作成日時:2023年9月9日 21時