戦場への差し入れ(紅茶) ページ2
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カフェの大扉を開けると、いつものようにコーヒー、ミルク、紅茶が私を出迎えてくれる。
「みんな〜!お疲れ様だよ〜」
「御侍さんもお疲れ様」
いつもお出かけ用のカバンを椅子に置き、紅茶が私の傍まで歩み寄るのを確認すると、勢いよく私は彼女に抱きつき、熱い抱擁を交わした。
紅茶の化身、とも言える食霊をこの手で抱きしめると、ふわっ、と花のような、果物のような香りが私の全身を包む。
このような素敵な香りに囲まれるのは、この中で紅茶くらいである。
私が両手で抱きしめると、一瞬紅茶はびっくりするも、すぐに安心した表情を浮かべて私を抱きしめ返した。
「今日は、特性のお茶菓子を用意してますわ」
ゆっくりと彼女は私から手を離し、気恥ずかしそうに自分の前に美味しそうな小さな焼き菓子を持ってくる。
「後であなたの好きな物作るから、楽しみにしてて」
私はそんな彼女にお礼を言う。
焼き菓子から香る匂いが、彼女が丹精込めて作った事を充分に伝えてきて、私は料理御侍として同じように答えねばいけない気持ちになった。
しかし彼女は相変わらずな粛々とした態度で頭を少し下げた。
「御侍さんが私のためにお食事を作ってくださるなんて……とても言葉では言い表せません。ですが……無理はなさらず」
彼女は嬉しそうに微笑んだ。
それが、御侍と食霊の関係である、いつもの私達の光景だった。
その後、カフェでの仕事が今日は暇だという事で、しばらくカフェでの時間を楽しんだ。
気がつくと、時刻はもうすぐ夕方の時間。
家には帰りを待つ人達がいる。
「鍛錬の時間なのですね、御侍さん」
台所は戦場、包丁は武器。
彼女にとって、料理作りは修行の場なのだろう。
そんな場所へ向かう私に、彼女は何も言わずともアールグレイを出してきた。
それから、私に微笑んだ。
「行ってらっしゃいませ」
───𝑒𝑛𝑑.
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作者名:月石 | 作者ホームページ:https://plus.fm-p.jp/u/moonstone
作成日時:2023年9月9日 21時