松田の話(1) ページ45
「新ちゃん、Aちゃん、ほんとに二人で大丈夫？ 」
「蘭だって来てくれるって言ってるし…家事は分担してAとやるから平気だって」
『料理はできないこともないからな』
空港でキャリーケースを手にした有希子さんは見送る俺たちを後ろ髪を引かれるように何度も振り返って念押しする。その度に優作さんは立ち止まって愛しげに有希子さんを見守っていた。
「ったく、まさか本当にガキ二人ほっぽってロスに行っちまうなんて…」
『まーまー…優作さんの仕事だし、仕方がねーだろ』
空港から帰る電車で新一は不意に愚痴を零す。強がってはいるがきっとまだ寂しい年頃なのだろう。俺がにやけていると新一は俺の頭を乱暴に殴った。
「ばらしちまうぞ。Aがけっこー前から萩原さんのとこ行くって言いながら松田さんの家行ってること…」
『ナハハハハ！ チクったら優作さんと有希子さんがロスから帰ってくんのかよ〜！ 』
「バーロー…チクんのは伊達さんに決まってんだろ」
『……俺も…悪いところがあったと思います…反省します』
マツダの元には中学二年生に学年が上がってもずっと通い続けた。今年の十一月七日にアイツは死んでしまうから、その時までに爆弾解体が完璧にできるようになっていなければならない。マツダはつい先日捜査一課に配属されたと俺に愚痴を零した。十一月七日までは残り数週間となかった。
「もっとおめー、青春しろよな…知ってるか？ A、一年からすげえモテてるの」
『はっガキに興味はねーな……で？ 誰が俺の事好きっつってた？ 』
「興味しかねーじゃねえかよ。ええと確か…女テニの佐伯さん…だったか？ 」
『へえ、園子の後輩かあ。写真送ってもーらお！ 』
いくらXデーが近づいているからといえ、日常生活を怠って新一を心配させてはいけない。探偵を欺くのは至難の業だった。不自然でないように、悟られないようにするために俺は何をしていても肩の力を抜けていない。心労からだろうか、肉を食うと胸焼けがして、最近はめっきり菜食になってしまったし、夜眠ることが難しくなってきた。…太陽の光を浴びるときっちりと目が覚める体だから日常生活に支障はない。
獅子は兎を狩るのにも全力をつくとはよく言ったもので、七十億分の一を救うためにここまで己の心身を削ることになるとは思ってもみなかった。
もう二度と大切なものを無くさない為に、大切な人が愛してくれた俺が誇り高くある為に奔走する。
二回目の分岐点は近づいていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 147人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ちゅんこ(プロフ) - ノルゼリイさん» ヤッター！めちゃくちゃうれしいです！コメントありがとうございます！好きです！励みになります！ (2021年4月30日 12時) (
レス) id: 63782632c9 (このIDを非表示/違反報告)
ノルゼリイ(プロフ) - 何日間かかけて前作から読破してしまいました！ とても面白いです。あ、主人公が、また黒の組織にと目をつぶりそうになってしまった時の救世主の優作さん、、尊い。 これからも物語楽しみにしてます。 (2021年4月29日 16時) (レス) id: 8f5d447aaf (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ちゅんこ | 作成日時：2021年4月24日 20時
