馬と鹿 ページ44
掌程の大きさの包を開くと、人間の指の骨の先のようなものだけがまるで乳歯でも保管しているかのように入っていて、大きさから凡そ小指なのだろうと察する。
「零の？ 」
分かりきった質問の答えは、包をしまってAが曖昧に濁した。死んだことをまだ認めきれていないAはきっと、これが零のものだと信じきれないのだろう。
__________結果的に言えば、それは紛れもなく零のものだった。腕を組んでAの近況を聞く零の右手の指先には小指の第二関節から先がない。いくらなんでも子供相手にやりすぎだと怒鳴れば、零は「あの子は聡明だから」とAと同じような笑顔で濁した。
「伊達班長は境界線を示してやったというのに松田…お前ってやつは…」
態々利き手の小指を切断するような律儀な男には何も言われたくはなかった。小言が長引きそうなのを見越して萩原に軽い挨拶を済ませると零を連れて病室を出る。
「はっ…オレは悪い大人だから、アイツの子供っぽさを見守ってやりたいんだよ」
きっと萩原が目覚めていたならば萩原も困ったように笑って「ごめんね降谷ちゃん」と俺の肩を持ったろう。オレは零の思い通りになるつもりはなかったし、零の計画…危険な仕事にAを巻き込まない為に、Aとの縁すら断つ、最大級の愛にも最凶の失望にも取れる計画に賛同するつもりもなかった。
大人になってしまった今のオレに、守りたい想いが先導しすぎた零の気持ちもわかるもののオレはもとより大切な人を失ったA側の人間だったから、その苦しみを知っているからこそどうしても賛同する訳にはいかなかった。
「桜を背負うことに躍起になって、守るべきものを見失うな」
「…ああ。心に留めておくよ」
それがオレを誤魔化した返事なのは理解していたが、去っていく零を呼び止めてまで叱咤する気にもならなかった。夕焼けは零の肌を赤く燃やしていて、一瞬見えた何かしらの決意の火を灯らせた瞳を見て、それ以上何か言うのも野暮だと思ったのだ。
今日も家に帰るとAが居た。どうやら中学生になったと嬉しそうに話すAの身体には傷跡はなく、見た目からのいじめはきっと自分でなんとかしたのだろう。オレが宿題として出してやった様々な状況下での爆弾への対処法を解いたらしく、『ここが難しかった』とか『ここはわかった』とかをまるで数学でも解いているかのように話していて、オレはきっと零への裏切りを働いているのだと、胸に重い何かが落ちた気がした。
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ちゅんこ(プロフ) - ノルゼリイさん» ヤッター！めちゃくちゃうれしいです！コメントありがとうございます！好きです！励みになります！ (2021年4月30日 12時) (
レス) id: 63782632c9 (このIDを非表示/違反報告)
ノルゼリイ(プロフ) - 何日間かかけて前作から読破してしまいました！ とても面白いです。あ、主人公が、また黒の組織にと目をつぶりそうになってしまった時の救世主の優作さん、、尊い。 これからも物語楽しみにしてます。 (2021年4月29日 16時) (レス) id: 8f5d447aaf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ちゅんこ | 作成日時：2021年4月24日 20時
