幾星霜の話 ページ40
地面に落ちた桜の花びらが煽られて見えない風に輪郭を与える。新入生が白い花を胸につけ、意気揚揚と新たな友人を作ろうとする中、一人俺は帰路に着こうと急いでカバンに荷物を詰め、新一の元に駆け寄る。
『あ、新一わりい！ 俺…』
「ああ、萩原さんのとこか。ったく…毎週欠かさず通うのは律儀なんだかやりすぎなんだか…」
声変わりのすんだ新一にコナンの面影はなかった。きっとこの世界で俺はお前をコナンにしないから。心の中で決意を呟く。新一に悟られないように顔を見せずに桜の落ちるアスファルトを蹴った。
病室は変わらない。白い部屋に、窓際の花。花瓶を持ち上げて水を手際よく変えてやるが誰一人として俺に感謝の言葉を届けない。それが当たり前の日常だった。花は二日前に俺が花屋で気まぐれに選んだ名前も知らない黄色い花だ。
『萩原、俺、中学生になった…けど、どうかな。少しは大人っぽくなったかな』
病室の椅子に座って身体の丈にまだあっていない学ランの裾を掴む。袖丈は俺の手を半分も覆ってしまっていて不格好だった。__萩原なら、不格好だと笑うだろう。
『…兄さんの墓参り行ってないんだ。というか…墓自体まだ行った事がなくてさ…怖くて。本当は俺が管理しなきゃいけねーんだけど…』
時間の経過が驚くほど緩やかだった。いつもなら他愛無い話をして終わる病室だったが、今日はどうしてか、兄さんの月命日だからだろうか。ポツリと小さな声で初めて誰かに墓のことを話した。
『……不思議だよな。一瞬だけ受け入れることが出来そうだった兄さんの死も時間が経てばやっぱり死んだ実感が無くなっちまう…萩原が話しかけても戻ってこないのはもう分かってんのに』
『…俺、もう行くよ。今日もありがとな…。花、明日変えるから…』
いつまで経っても兄さんと萩原のことを後悔している暇がないのはずっと理解していた。こうして病室に足を運ぶのが時間の無駄でしかないことも、今、マツダが萩原の仇討ちの為に奔走しているのも全てわかっている。
時間が巻き戻って兄さんに怪我を治してもらった時は時間が無限にあるように思えたのに、気がつけばマツダが死んでしまうのは来年の出来事になっていた。
病室の澄んだ空気は俺がベッドで寝ている時は気にならないのに、誰かを見舞いに行く時は肺がそれを満たす感覚が嫌だった。
病院を飛び出して喪失の感覚を噛み締めながら太陽を睨むと、どこかのカラスが俺を馬鹿にするように鳴いていた。
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ちゅんこ(プロフ) - ノルゼリイさん» ヤッター！めちゃくちゃうれしいです！コメントありがとうございます！好きです！励みになります！ (2021年4月30日 12時) (
レス) id: 63782632c9 (このIDを非表示/違反報告)
ノルゼリイ(プロフ) - 何日間かかけて前作から読破してしまいました！ とても面白いです。あ、主人公が、また黒の組織にと目をつぶりそうになってしまった時の救世主の優作さん、、尊い。 これからも物語楽しみにしてます。 (2021年4月29日 16時) (レス) id: 8f5d447aaf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ちゅんこ | 作成日時：2021年4月24日 20時
