萩原の話(5) ページ28
ガラガラと音を立てて建物が崩れる。爆風に飛ばされないよう、萩原は俺を下に置いて庇った。轟轟とした地鳴りが止み、土煙が辺りを包む。庇われて痛みはないものの、萩原の呻き声が頭上から聞こえて咄嗟に彼の名を叫んだ。
『は、萩原…平気か！？ 俺を庇って…なんで…お前は生きてなきゃいけないのに…』
「……っ…ああ…陣平ちゃんがどうしてAの呼び方が嫌だって言っていたかわかった気がする………」
『はあ！？ 』
萩原の胸元を逃げ出して彼の状況を俯瞰的に見遣る。
頭の損傷を免れたようだが、左足が崩落した建物により潰れている。礫を俺から庇うようにした背中はいつかの俺が、割れるガラスからコナンを守った時のように真っ赤に服を濡らしていた。
『…ここは危ない。建物の崩落が始まってる。石をどかす』
「やめとけ。………石をどかしたところで…俺は歩けない」
子供の体躯では大きな石をどかすのにも一苦労で、石が地面に叩きつけられた萩原の左足をすり潰す度に悲痛な声を我慢して萩原が唸る。
『…歩くのなら、俺の肩を貸すから』
「…いい顔つきだな。…一瞬でも、Aが《生き方》を思い出してくれて…オレは嬉しいよ」
妙に納得する言葉だった。俺は今まで死んでいたから何も感じなかったのかもしれない。萩原を助けることで俺は生きることができるのだろうか。兄さんが見れない明日を見ることが出来るのだろうか。
萩原の足に落ちた石を完全に退けてしまうと、潰れて嫌な方向に曲がった足が血溜まりに浮かんでいた。
「…あぁ、嫌なもん見せちまったな…まあ、すぐに治るし…」
『…隠さなくていいよ…俺だっていつまで経っても庇護下のガキじゃない』
「……そうか…」
萩原の腕を肩に回して、ゆっくりと持ち上げる。痛みに呻く彼を気遣う余裕はなかった。爆風の後、建物が延焼しているらしく、熱気が階段下にも訪れていたのだ。
階段をゆっくり降りると、どこかでガラガラと建物が崩れる音がする。相変わらず土煙だけが凄まじく咳き込むと、グラりと体躯が揺らいだ。
「…おい、平気か」
『…わり、揺らしちまっゲホッ…ゴホッゴホッ…』
口を抑え咳き込むと、喀血していてありえないほどの血の量が手にベッタリとついており、血の気がサッと引いた。
「…鼻血だけで済まなくなったのか」
『……いいや、喀血は初めて……ゲホッ…』
血の味が嫌に口にこびりつく。それでも歩き続けると崩落した建物が俺たちの行く手を阻んでいた。
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ちゅんこ(プロフ) - ノルゼリイさん» ヤッター！めちゃくちゃうれしいです！コメントありがとうございます！好きです！励みになります！ (2021年4月30日 12時) (
レス) id: 63782632c9 (このIDを非表示/違反報告)
ノルゼリイ(プロフ) - 何日間かかけて前作から読破してしまいました！ とても面白いです。あ、主人公が、また黒の組織にと目をつぶりそうになってしまった時の救世主の優作さん、、尊い。 これからも物語楽しみにしてます。 (2021年4月29日 16時) (レス) id: 8f5d447aaf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ちゅんこ | 作成日時：2021年4月24日 20時
