交わす話 ページ23
客がゾロゾロと帰るなか、女は一人、隣のコンビニに入店した。何かを買うためではない。捨てる為だ。店員に声をかけトイレに向かう。女にあるのは少しの背徳感と、騙しきった高揚感だけだった。
「ホー。やはりアナタだったか」
兄さんが女の腕を掴んでそう呟く。女は驚き、そして直ぐに困惑した表情を作った。
「…オイオイ……そんな拗ねるなよ」
『拗ねてねえ！ 』
ハギワラが肩に回した腕を振り払ってそっぽを向いた。
「アハハ、Aもまだまだってことなんだよ」
『だって…おれを利用したろ。間違った推理をさせて…』
「勘違いするな、間違った推理をしたのはAの力量だ」
兄さんは一線を引くようにおれを突き放す。それが悔しくて『わーってる…』と力なく返した。
あの女は、フグ毒を何かに仕込んで食べさせた訳ではなく、マスクの骨を鋭くして、その先に毒を塗って男を刺したらしい。兄さんとハギワラは女の歩き方が不自然なのを見て、隣のコンビニにマスクを処分しに行く女を捉えたのだった。女は倒れた男の不倫相手だったらしく、男が女を遊びとしてしか見ていないのを知ってこの犯行を思いついたらしい。
兄さんとハギワラはそれを全て見通した上で、おれが嬉々として推理を話すのを女に聞かせていたのだ。
『…悪趣味なヤツら』
そう呟いたのをハギワラは笑って「ごめんね」と受け止めた。
『…トロピカルランドのポップコーンの全種類で手ぇ打ってやるよ』
「ゲ、覚えてたの？ また今度にしようや…」
『はぁ！ 嘘だったのかよ！？ 』
「逆に信じてたのかよ！ 」
また今度なんて来ないかもしれないのに。それは喉元を通り過ぎる前に気持ちごとかき消した。彼がまた今度というならば、その機会を潰さないよう、例の爆弾事件で彼を救えばいい。
『……また今度って約束、忘れるなよ』
「モチロン」
おれたちを繋ぎ止めるにはあまりにも細い命綱だった。生きていてほしいと願うことが神に逆らう事柄だとしてもその命綱を握っていたかったから、彼に念押しのように『本当だからな』と袖口を掴んだ。
「…帰ろう」
遮るように兄さんが冷たく言い放った。きっとおれが何かをやらかすことを勘づいて、もう関わるなと警鐘を鳴らしたのだろう。ハギワラは「おう、帰ろうか」と呑気に呟く。兄さんがおれに無言で手を差し出した。小学四年生にもなってまだ手を繋ぐと思っているそのズレた男の感覚に今は少しだけ縋りたくなって手をとった。
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ちゅんこ(プロフ) - ノルゼリイさん» ヤッター！めちゃくちゃうれしいです！コメントありがとうございます！好きです！励みになります！ (2021年4月30日 12時) (
レス) id: 63782632c9 (このIDを非表示/違反報告)
ノルゼリイ(プロフ) - 何日間かかけて前作から読破してしまいました！ とても面白いです。あ、主人公が、また黒の組織にと目をつぶりそうになってしまった時の救世主の優作さん、、尊い。 これからも物語楽しみにしてます。 (2021年4月29日 16時) (レス) id: 8f5d447aaf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ちゅんこ | 作成日時：2021年4月24日 20時
