簡単には死なない話 ページ15
「…しないね。A、爆処のスカウトの話したあとからずっとそうやってオレに交番勤務を勧めるけど、そんなに爆処行って欲しくない？ 」
困ったようにハギワラは笑う。店員がメニュー表をそそくさと回収してキッチンに戻ったのを眺めて次に紡ぐべき言葉を長考した。
『……警察を辞めて欲しいのが本音だけど』
「考えた末がそれか。Aも嘘つけねーよなあ」
空になったコップに水を注いでハギワラはまたおれを撫でた。
「でも、警察をやめて欲しいのはオレたち全員に思ってるだろ？ 警察に恨みでもあんのかよ」
『…無い。無いけど…』
「おまえの兄さんなら心配いらないよ。優秀な成績を収めて優秀な警察官になる。そうだな…捜査一課とかに配属されんじゃねーの？ 案外似合うじゃん。死体」
『ふ…不謹慎だなあ！ 』
「アハハ、冗談だって！ 」
本当に死体になる予定の人間が快活に笑うので、おれの悩みなど到底ちっぽけに思えてきて悩むことすら煩わしく感じた。
おれは兄さんのために、兄さんの大事なものを守りたい。しかし、どうしても彼らは警察を諦めるつもりは無いようで、同じように他の人達にも掛け合うが、それとなく流されてしまった。特にハギワラは、死期が近く、焦りも募る。こうなれば、現場に乗り込んででも食い止めるしか、と不意に鼻血がまた出ていたことに気がついてナプキンをまた掴んで鼻を抑えた。
『…やだよおれ、みんなが死ぬの』
「死なねーよ。人は簡単に死なないんだ」
ハギワラが言い終える前に、入口の近くに座っていた男が急に苦しんで、陸上にいるというのに水中で溺れたようにもがくと糸の切れたように男はカフェスペースに嘔吐して倒れる。店内に叫び声が響いた。
『…人は簡単に…なんだっけ』
「………まだ生きてるかも」
ハギワラは半個室を飛び出して、地に落ちた男のカバンを蹴飛ばす勢いで男の倒れた半個室に駆け込んだ。男は必死に息をしようと喘いでいるようで、掠れた喉の音が地を這った。
「まだ意識はある。A、救急車呼べ」
『わかった。おい、お前ら店の食いもん食うなよ！ あと外にも出ちゃダメだ』
周りの客に呼びかけると、怯えた様子で男の倒れた半個室の周りに集まった彼らは身を寄せあっていた。誰も身動ぎしないのを見て、優作さんが外出の時に持たせてくれるようになった自分の携帯に一一九の電番を入れていく。短いコール数の後、救急車の出動要請は通った。
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ちゅんこ(プロフ) - ノルゼリイさん» ヤッター！めちゃくちゃうれしいです！コメントありがとうございます！好きです！励みになります！ (2021年4月30日 12時) (
レス) id: 63782632c9 (このIDを非表示/違反報告)
ノルゼリイ(プロフ) - 何日間かかけて前作から読破してしまいました！ とても面白いです。あ、主人公が、また黒の組織にと目をつぶりそうになってしまった時の救世主の優作さん、、尊い。 これからも物語楽しみにしてます。 (2021年4月29日 16時) (レス) id: 8f5d447aaf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ちゅんこ | 作成日時：2021年4月24日 20時
