待ち合わせの話 ページ14
「そういうことにしてやる」と新一が妥協したのは、おれが新一を遠ざけていることに勘づいていたからなのだろう。守りたいがために彼との「嘘をつかない」と誓った約束を破ってしまうことに感じていた虚しさは、優作さんをおれの協力者に迎えて数ヶ月経ったあたりにはもう消えて無くなっていた。
「よっ。降谷ちゃん弟」
『その呼び方やめろって…ハギワラ』
カフェの端のスペースで今までの記憶を整理したキャンパスノートに文字を書き込む。メモ書き程度のそれは、もはや書きなぐっていておれ以外にはきっと見ても分からない代物だ。ハギワラはキャンパスノートを覗き込むと「勉強？ 」とおれの前の席に座った。
『自由研究的な』
「へえ。…うぉ。すげえ鼻血。コンビニ強盗のときからずっとそれだな」
頬杖をついてハギワラは店員が持ってきた水を一口含んだ。おれが鼻をテーブル上のナプキンで抑えているのを見て、ぎょっとした顔でティッシュを取り出しておれの鼻に当てる。
『なんか鼻が切れやすくなっちまってなあ。不思議だ』
「降谷ちゃんが言ってたぜ。コンビニ強盗のあの事件の後の検査で致死量まで減ってたって」
結局、兄さんにはコンビニ強盗で裏手におれがいた事がバレて、こってり絞られてしまった。しかし、やはり彼の正義に反しない領域の《おれが兄さんを助けるために新一を危ない目にあわせた》ことは触れられず、彼は《大量出血をしているのに無理して動いていた》ことに怒っていた。一言彼に『めんどくせーなあ』と呟くと久しぶりに兄さんに頭を殴られて、その懐かしさに鼻の奥がツンと痛んだ。
『おれの中ではもう、随分と懐かしい思い出なのに傷は癒えないなあ』
「癒えない傷があってもいいじゃない。ほら、何でも頼めよ。今日はオレの奢りだからな」
『じゃーあ…コレ！ナポリタン！ 』
「ハンバーグじゃなくていいのか？ 」
『おれが何でもかんでもハンバーグ食うって思ったら大間違いだからな…』
「ホー。大人の階段登ったな。」
ハギワラはおれの頭を撫でた。ガキ扱いにも慣れてしまって、撫でる手を凪いだ心で掴む。
『これが未来の爆弾処理班の手か』
爆弾処理班にスカウトされたことはハギワラの口から聞いていた。…もとより、聞く前から知っていたのだが…。ハギワラはおれが手を握るのを見ながら店員に注文を伝えた。
『…なあ、交番勤務はしねーの？ 』
そう呟いた声は案外悲愴していて、コップの水に映ったおれの顔が揺らいでいた。
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ちゅんこ(プロフ) - ノルゼリイさん» ヤッター！めちゃくちゃうれしいです！コメントありがとうございます！好きです！励みになります！ (2021年4月30日 12時) (
レス) id: 63782632c9 (このIDを非表示/違反報告)
ノルゼリイ(プロフ) - 何日間かかけて前作から読破してしまいました！ とても面白いです。あ、主人公が、また黒の組織にと目をつぶりそうになってしまった時の救世主の優作さん、、尊い。 これからも物語楽しみにしてます。 (2021年4月29日 16時) (レス) id: 8f5d447aaf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ちゅんこ | 作成日時：2021年4月24日 20時
