強盗の話 ページ50
『まずい、犯人かも! おまえ、そのまま行け』
「おう、上から引き上げる」
小声でやり取りする間も足音はどんどんと近づく。バットを持った男ならばともかく、ショットガンを持った男ならばドア越しに射撃される可能性がある。新一が登りきった時、扉を叩く音が個室に響いた。
「すみませーん。トイレ、まだですか」
個室を隔てる板の上は少し隙間が空いていて、今上に登る訳には行かない。下から新一に天井裏へのダクトを閉めろと指示を出すと、新一も察したようでゆっくりとそこを閉めた。一安心してため息を着く。
強盗犯の持つ武器が何かわからない以上、こちらの正体が何も知らない子供であるとわからせたほうが得策であると考えて『今でっけーの出してる』と大きな声を出した。
「ボウズ、二人で個室入ってんのか」
『うんこしてんのに話しかけるなよ…一人だぞ』
「さっき個室で誰かと話してただろう」
『俺が気張る音だな』
「そうか」と呟くと男は出ていった。安堵で肺の中の息が全部外に漏れる。しかし男が聞き耳を立てている可能性を考えて、天井裏の扉にトイレットペーパーを投げつけた。ゆっくりと扉が開く。新一が俺の元へ手を伸ばした。
今度こそ鍵に足をかけて新一の手を握ると新一は俺の手を引いて何とか俺を引きあげた。
『サンキュ』
「…プッ…おめー、よく咄嗟にあんな嘘つけるよなあ! ハハハハ! 」
『ああいうしかねーだろ! あの場では』
「それにしてもプライドっつーもんが無さすぎて…ハハハ…笑いこらえるので必死だったよ…」
『探偵様には小市民の気持ちなんて分からねーだろ』
俺がむくれると、新一は「悪ぃ悪ぃ」と平謝りで俺を窘めた。屋根裏部屋は思った以上に広く、立って歩けるほどで、しかし光源が少なく俺の携帯電話だけが俺たちの顔を照らす。
『一応…他の部屋に繋がる天井蓋はあるものの…』
地面の天井蓋を少しずらすと、下から微かに明かりが漏れる。客であろう多数の人間が拘束されており床に座らされていて、「コンビニ強盗の手口と言うよりも銀行強盗のようだ」と新一が呟いた。
「助けるか? 」
『まさか…助けたいのは山々だけど有希子さんを悲しませる訳には行かねーよ』
何か言いたげな顔が光に照らされたのが見えていたが、それを無視してくらい部屋に新一の浮かない顔を置き去りにして天井蓋を閉じようとした時、視界の端に見覚えのあるアイボリーと褐色のカラーリングが掠った。
『…おい、まて。状況が変わった。助けるぞ』
140人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ちゅんこ | 作成日時:2021年4月2日 22時