目が覚めたら降谷零の弟になっていた話3 (ページ48)

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説教の話ページ48

その次の日から俺の携帯の連絡帳に様々な大人の名前が加えられて、更には隣に住む阿笠博士が作った発信機まで取り付けられることになった。
思った以上に他人は俺を気にかけていてくれているらしくて、胸がほんわりと暖かくなった。

「だいたいおめーは…って…聞いてねーだろ」
『あぁ、え？聞いてる聞いてる。チョー聞いてる』
「Aのは聞き流してるっつーんだよ…！」

新一が俺の柔い頬を信じられないほど強い力で抓って投げ捨てる。『何するんだよ』と唸れば、「聞いてないおめーが悪ぃ」と新一は俺を睨んだ。
朝起きてから学校に行くまで。学校に着いてから学校が終わって帰路についてまで。新一は俺の耳元でずうっと俺に説教をしていて、初めこそ反省の気持ちからきちんと聞いていたものの、段々と説教のレパートリーが尽きないことが不思議と思えるほどにくどく俺に怒っていたし、別に死のうがまた時間が戻るのだろうという根拠の無い自信があるので新一の話をただ聞き流していた。

『だいたい…何時間説教してると思ってんだよ…もう六時だぞ！新一が起きて俺に説教し始めてから十一時間だ。飽きないのか？』
「飽きる飽きないの話じゃなくて…」
『お！みろ！これうまいアイスの新フレーバー！』

冷凍ケースから黄色いパッケージの棒アイスを取り出して新一に見せると新一は呆れた顔でため息をついた。発信機をつけられていると言えども携帯を持っていて誰か、信頼のおける人と一緒にいるならこれまで通りどこに行こうが構わないと放任主義らしい工藤夫妻は俺に条件付けた。結局、事件の渦中にいる張本人の俺自身の危機管理能力はどんな事があっても成長しないらしく、新一を連れて近くのコンビニまで走ってアイスを買いに来ていたし工藤夫妻はそんな俺の性格を見越して、諦めていたと考えることも出来る。

「怒られているうちが花だと思えよな」
『…それは分かってんだけど…』
「けど？」
『いや、事件が俺を呼び込むっつーか…むしろ俺が事件っつーか………』

今まさに入店しようとガラス張りの扉の前に立つ男を見ながらそう呟く。新一の角度からはその男が見えないのだろう。ショットガンを持った男とバットを肩にかかげた男がコンビニの中に足を踏み入れる。

『新一、逃げるぞ』

さすがに有希子さんの涙を二日連続で見れるほど人間が出来ていない俺の灰色の脳細胞は、この状況を打破する為の算段を導き出した。トイレの中に隠れ、天井裏から店外へ逃げ出すのだ。