目が覚めたら降谷零の弟になっていた話3 (ページ46)

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会えた話ページ46

鳥の囀りが俺の耳を包み込む。まるで歌うような声が俺の意識を引き上げた。瞼を開けると米花病院の白い天井と点滴が視界に映ってもしかして、と期待して上半身を擡げる。
しかし病室内の椅子には俺の期待に反して誰も林檎の皮を剥いていなかったし、どこを探しても兄さんの姿は病室には無かった。傍に置かれた日めくりカレンダーは俺が丸一日眠っていたことを示していて、その隣には空の花瓶が日に照らされて艶めいていた。

『兄さん来てないか』

呟いた声は誰も拾わない。こういう、怪我して目が覚めた時、必ず隣に誰かが居たので俺は少しだけ寂しくてもう一度寝転んだ。

新一に、工藤夫妻になんと説明しよう。流石に俺の生傷が多くてきっと心配かけてしまう。特に有希子さんは俺の事を本当の息子のように接してくれているから、彼女の心労を思うと胸が痛む。…まあ、俺があの時大人しくしていれば怪我はしなかったのだが…。

しかし結局兄さんが俺の為に作った一日を無駄にしてしまったし、犯人達がどうなったのかも知るよしもない。手に入れたのは黒ずくめの組織への片道切符だけで、失ったものと手に入れたものの釣り合いが取れずにため息をついた。

『ったく。こうも病室暮らしだと逆に生命力が鈍るっつーか…』
「なら怪我をするな。周りの人間の心臓がもたない」

ガラリと病室の扉が開いて、黄色い花束を抱えた兄さんが「おはよう」と目を細めた。

『な、なんで…！？警察学校は！？』
「この間説明したろ。土日祝日が基本休みだから、ゴールデンウィークが過ぎた辺りになれば会えるようになるって…」

兄さんは持ってきた黄色い花束をテキパキと花瓶に活けてあっという間に病室を華やかにする。病室で林檎を剥いていない兄さんを見るのが懐かしくて俺は笑みが零れた。

『悪ぃなあ。兄さん、心臓冷えたろ？俺は慣れっこになったけどさ。』
「…咎めないよ。別に。あの時、Aが誘拐されてしまったのは保護者である僕が目を離してしまったからだし、…確かに犯罪者相手に渡り会おうとしたのは悪手だけど…Aはああいう誘拐されて大人に商品にされる子供を増やしたくなかったんだろう」

そういえば、前の世界でも降谷零は俺の正義を肯定して自己犠牲を正義と形容した。あの時、降谷零は自身の正義を肯定するために俺の自己犠牲を肯定していたが、今の兄さんも同じ、傷付きながらも正義の炎を絶やせない…そんな顔をしていて胸が痛んだ。