機会の話 ページ45
「あなたは組織の人間、ベルモットじゃないただの女優のシャロン・ヴィンヤードと協力関係になるの。それも、借りをひとつ作ったのならすぐに借りを返さないといけない関係。なるたけ貸し借りゼロの状態でいなければいけないという関係…どう? 悪くは無いでしょう」
まさかそんな純粋な契約をベルモットが持ち出すと思えなくて俺は思わずなにか企んでいるのかと白いハンカチをひったくるように狭い車内の扉に背を這わせた。
「やあね。何も企んでないわよ。それほど私も必死だってこと…汲んでちょうだい。それぐらい」
『…あんたなら俺の兄さんを人質にとって俺を思い通りに動かすことぐらいするだろって思ったんだ』
「……あなたに対して真摯でいたいだけよ」
彼女は俺の頬を細長い人差し指でなぞって手を離す。離れた右手はまるで白蛇のように体躯をハンドルに巻き付けた。
『…米花駅で降ろしてくれ。あとは自分で帰るから』
フードにしまった携帯を取り出してベルモットに差し出すと彼女は微笑を浮かべて慣れた手つきで連絡先を交換した。
「バーボンに、米花駅でなく米花病院にいると伝えて。…メールでね」
ベルモットは俺に向かってウインクをすると車を発進させた。荒っぽい運転だったが先程よりも揺れは少なく、段々と山道も舗装されているのに気がついた。すっかり日は落ちていて遠くに街の明かりがチラチラと瞬くのが見えて、兄さんと会えなかった分の傷を癒すような日になるはずだった今日を思って胸に杭が刺さる。
『なあ、結局あいつらはなんだったんだ』
痛みを紛らわせるように、車内のラジオの検問情報をかき消すようにベルモットに問いかける。
「髭の男達ね。彼らは組織の下っ端構成員のようなもの…かしら。指令外で余計なことをしているとの噂があったから、どれほどおいたをしているのか見に行ったのよ。川島になって」
『へえ。そんな世直しみたいなことするんだ』
「どんな世界でも規律が物を言うのよ。子供には分からないでしょうけど」
俺はすっかり感心して皮肉のつもりはなかったものの『人は殺すのにルールを守るって変だな』と心の声が漏れてしまった。ベルモットは笑って「そうね」と呟いたきり何も話さない。俺はゲーセンの帰りの出来事を思い出そうとしてから、頭の真ん中の大事なところが抜け落ちたような気味の悪い感覚がずっと付きまとっていて瞼を閉じると疲れていたのかすぐに意識が落ちていった。
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作者名:ちゅんこ | 作成日時:2021年4月2日 22時