届ける話 ページ5
__まあなんやかんやで、一ヶ月…兄さんと会えない期間は直ぐに過ぎ去った。それでも小学四年生の一ヶ月は驚く程に長くて、俺はもうすっかり工藤家に馴染んでいた。
『有希子さん有希子さん!優作さんって今日掲載誌の人達と打ち合わせだったよな?』
「ええ…そうだけど…それがどうかした?」
『これ…優作さんの弁当…』
「あぁ〜!優作、そそっかしくでてったから忘れちゃったんだ〜!!」
『じゃ、俺新一と届けに行ってくるぜ!』
「あっおい、俺は行くなんて行ってねー…!」
新一の手を引いて走り出す。新一は「マジで止まれ!バーロ!!」と俺を制した後、キッチンに戻って弁当を持って現れた。
「…そそっかしいのはおめーだよ。忘れてるぞ。父さんに持ってく弁当」
『あ、悪ぃな〜!』
「ったく、先走って考えるのは治らねーな。一緒に行ってやるよ。その調子だとどこで打ち合わせしてんのかも知らねーだろ?」
俺はそこまで考えていなかったことに気が付いて、本当に新一は10歳だろうがなんだろうが、頭のよく回る子供だなあと感心した。
編集社はどうしてか規制線が張り巡らされていて、慌ただしく人が出入りする。1番近くに居た警察官と思われる男に声をかけた。
「参ったなあ。さっき、事件が起きてここは閉鎖されてるんだよ。せっかくお弁当を届けに来たところ悪いけど…ここには入れないよ…」
男は屈んで俺たちに目線を合わせた。俺はガキ扱いしやがって。と一瞬満面朱を注ぎかけたものの、それを表に出す前に冷静に抑えて新一を見た。新一と視線がかち合う。どうやら同じことを考えている様子で、俺と新一は頷きあった。
「でも、コイツがトイレずっと我慢してて…この辺、コンビニも無いからさ… 」
そう、新一と俺は全く同じことを考えていた。俺も、『新一がすげートイレに行きたがっていて…』と相手に不名誉な汚名を着せるつもりだったのでカチンと頭に血が上る。だが俺はこいつよりも大人なので、怒りを鎮めて新一の作戦に乗った。
「え…?コンビニなら隣に…」
『う、うわー!漏れる!マジでやばい!おじさんわりーな!』
俺は叫ぶと規制線をくぐり抜け、警察官の俺を掴もうとする手を躱してトイレの個室まで一直線に走る。
これで見張っていた警察官は一時的に居なくなったはずだ。新一がこの間にきっと、優作さんに弁当を届けるはず…とそこまで思索したところで、俺は、俺の手が弁当を握り締めていることに気が付いてサッと血の気が引いた。
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作者名:ちゅんこ | 作成日時:2021年4月2日 22時