目が覚めたら降谷零の弟になっていた話3 (ページ32)

今日:27 hit、昨日:44 hit、合計:80,728 hit

盛会の話ページ32

マツダは俺を狐疑逡巡して睨むと俺の目線に高さを合わせた。ショッピングモールの広場に集まった鳩が風切羽に空気を蓄えて散っていく。俺の座ったベンチの背もたれに一羽、汚い色の羽根をした鳩が飛んできて思わず手を伸ばすとその鳩は人懐っこく俺の手の上に乗った。

『おお！見てくれ、凄くねーか？俺のことが好きらしい』

手に乗った鳩をマツダに見せつけるように腕をゆっくり伸ばすとマツダは俺の手を叩いて鳩をどこかに追いやった。俺が『なんてことを』と口走る前にマツダは「ビョーキがうつるぞ」と小さく忠告して嗤笑した。

「正直俺の名前を知ってたかどうか云々みたいなのはもうどうでもいいことだ」

マツダはそう切り出した。動かなければまた鳩が集まる。俺は集まった鳩に向かって食いかけの菓子パンをちぎってやるとみるみるうちにまた鳩が集まる。さっきの小汚い色の鳩も厚顔に俺の足元へ寄っていた。

『じゃあなんでさっきから俺の事ずーっと睨んでんだよ…。』

ゴミ箱が落ちる前から嫌な視線が俺にまとわりついていたし、それは今も同じでこの男はずっと俺の事を睨んでいるのだ。俺は気持ち悪くなって首筋をさすった。マツダも同じように首筋をさする。真似をされたのだと思ってマツダに嫌忌の念を抱く。

「…お前が怪我してから、零の様子がおかしい」
『兄さんが？』

しかしその一時の忌避は「ゼロ」と聞けばスグに飛び去ってしまった。遠くの兄さんはハギワラとダテを捕まえて、何かを説教している。景光兄ちゃんはそれをいなしていた。

「ああ。今は気丈に振舞ってるが、かなり困憊してるみたいでよ。今日零に着いてきたのは、零がよく話す弟を見に来たってのもあるが…正直今のあいつが一人で外に出て辿り着くかわかんなかったからつけてきたんだ」

首に回した手をそっと這わせて少し凹んだ傷跡を撫でた。頸動脈には刃は到達していなかったものの、あと少しで喉笛を傷つけて声を出せなくなるところだった。と後に医者から知らされた時には流石に驚いて、今、声が出る俺にとっての変わらない当たり前のことに酷く感謝したのは記憶に新しい。

「…わざとだろ。あの女にお前の首刺させたの」
『……どうしてそう思ったんだ？』
「お前が俺の腰に提げてた訓練用の空銃を見てから暴れたからな」
『…それ見て暴れたけど…あの時は必死でそこまで頭回らなかったし…刺さったのにも気が付かなかった』

マツダは怪訝そうに俺を見る。