目が覚めたら降谷零の弟になっていた話3 (ページ25)

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箱の中身の話ページ25

Aへ。そんなタイトルのテキストファイルを書いたのが前の世界で死ぬ前の兄さんだとするならば。その仮定を頭の片隅に思い浮かべた時、俺の手は震えた。兄さんが俺を殺す前に何を書いたのか、純粋な好奇心と前の世界の兄さんを感じることが出来た喜びで涙が頬を伝うのがわかる。それを拭う余裕もないほどに兄さんに撃ち抜かれた心臓が暴れていた。

『あ、開ける…開けるから…ファイル…ごめん…もうちょっと…泣かせて』

新一は俺に深くを尋ねなかった。それどころか、「珈琲いれてくる」と席を立って一人にしてくれた。
さめざめと溢れる涙に声を押し殺して流したままにする。今の兄さんも前の兄さんも兄さんには変わりないのだが、今や俺への接し方が分からずに、俺が怪我をしようがそれを責めることが出来ずにただ林檎を剥いていた兄さんの思い出は俺だけのものになってしまった。俺は涙が止まるのも新一が戻るのも待たずにテキストファイルをクリックする。兄さんが死ぬ前に書いた文字をいちはやく見たかった。兄さんの生を今はどんな形であろうとも感じていたかった。だが、クリックの心地良い感覚とは裏腹にテキストファイルは簡素なもので、一行程の文章で纏められていた。

___いかがわしい画像を見るな。まだ十七歳だろ。___

『…は？』

こんなもの、口頭で俺を殺しながらでも伝えればよかったじゃないか。…いや、殺しながらこれを言われても困るが…ともかく、真実とはこうも儚いものか。兄さんが俺を殺す前に何を思ったのか結局分からないことが俺の胸にしこりを残す。見なければ良かったと好奇心を殺された俺は悔やんだ。

「はあ？おめー、"そういう"画像を回収させるために俺と蘭と園子を遅くまで付き合わせたのかよ！」
『し…新一…！？』
「きったね～…まだ涙止まってねーじゃねえか…ほら、鼻水拭けよ」
『わ、わりい』

新一はティッシュを探して何枚か抜き取ると俺の前に突き出す。新一の手ごと掴んでなりふり構わずに鼻をかんだ。俺が鼻をかみ終わって新一が掴むティッシュを奪おうとすると新一は俺が取る前にまるめてゴミ箱に捨ててしまった。『ありがとう』と小さく礼を言うと新一はぶっきらぼうに「おう」と小さく返す。

「…で？本当はなんなんだよ…そのUSB」
『…別に…大したことな…』

そう言いかけて、俺は前の世界で鎖のように刻みつけた新一との約束を思い出して口を噤む。

『…大したこと…ある』