桜の話 ページ22
"何かある"という根拠もない確信は俺が死ぬ間際に兄さんが言った「桜の木の下」という言葉を思い出したからだ。"前"世界で兄さんが言った桜の木の下と今の世界の桜の木の下に関係があるのかも分からないし、そもそも桜の木なんてどこにだってあるからこの桜の木かどうかすら分からない。だが心に掛かった釣針が「今は釣られてみろ」と言わんばかりに俺の心を惹き付ける。
『ごめん、どいて欲しい』
「ふ、降谷?! 」
クラスメイトを押し退けて俺は桜の木の下の根元を掘り進めた。いくつか穴を掘ろうが何も出てくるはずもなく、根に当たっては辞め、当たっては辞めを繰り返して、既に木の下が穴だらけになっていたことに気が付いた頃には俺はスコップで掘ることすら煩わしく、手で土を掘って血と泥が混ざって嫌な匂いが鼻先を掠めた。
『あー…当たり前だよな…時間巻き戻ってるならある方がおかしい』
桜の木の下、兄さんの言葉を鼓膜を通さずにもう一度聞く。思い出そうとした言葉の声は、今の兄さんの声と少し違っていて、俺は七年も経っているものな。と独りで納得した。
「A…!おめー今日おかしいぞ…」
新一が、若干引いた顔をしながら血と泥に塗れた俺の手を掴んだ。温い土塊の中に手を置いていた時には分からなかったが爽やかな風が俺の手を撫でた時に痛みに気がついて顔を顰める。
『…別に変じゃない』
ただ、妙な焦燥が俺をかきたてて何かを探せと言っているのだ。兄さんの言った「桜の木の下」が俺の脳にこびりついて離れない。俺を突き動かすのはその一点だけだった。
「………わーった! じゃあ俺も探す。何探してんのか知らねーけど…」
「…私も! 私も探すよ! A! 」
「…私の氷持ってきた努力無駄にしてねえ! 黙ってられるわけないじゃない! 」
『…お、おめーら』
新一を皮切りに、蘭と園子が俺を見おろす。ただ、何を探しているのか自分でもわかっていないのに答えのない答えを探す地獄を強いるようで俺は気乗りしなかった。『でも』と口を開きかけるが、その前に蘭がしゃがんで穴を掘り始めた。しゃがんだ蘭は俺よりも身長が低くなって「こうすればいいの? 」と言った時には俺を見上げていた。
『……俺も自分が何探してるかわかんねえ。でも桜の木の下って言われたから…』
「わかんないのに探してたの? お兄さん絡みね…」
園子が何かを察したように肩を竦める。
俺は照れ隠して笑って誤魔化した。
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作者名:ちゅんこ | 作成日時:2021年4月2日 22時