贖う話 ページ3
その日は、兄さんとファミレスで晩飯を食った。心因性のものだと言われ憂患する兄さんからその不安を取り除きたかったので、努めて明るく『俺、ハンバーグ食いてえ!』と声が出るようになって初めてそう言ったのだ。
「…僕は心配なんだ。Aが僕なしで生きていけると思わない」
『…俺を舐めんな。アンタが居なくたって…』
「A」
『……兄さんが居なくたって、俺の方が自炊は上手いし』
「…それは…」
この時は兄さんよりも俺の方が料理が上手くて、よく俺が料理を作っていたことを思い出した。
俺は兄さんに幸せになって欲しいと思っているから、兄さんの決めた道はなるだけ応援したい。確か、"前"もそう思って俺は兄さんに冷たく当たって警察学校に行かせたんだっけ。
『それに兄さんと二人暮しの今よりも、俺は親戚の人に引き取られた方が』
「…?今は君の友人の…ええと、工藤夫妻が引き取ってくれるって話が出ていただろう…それに、僕らの親戚は辿れないって…」
『え?』
俺を見てキョトンと首を傾げる兄さんは、俺の皿に兄さんが食べていた和風ハンバーグの欠片を乗せてそう呟いた。
『し、新一の家の子になるのか?俺が!?』
「新一くんと言うのかい。君もそれで喜んでいたから、もう挨拶も済ませてしまったし…」
だって、"前"は…と口を開きかけて、喉で声を堰き止めた。前は、親戚の人に引き取られるけどその親戚の人が死んで…俺はそこからベルモットの元で働かざるを得なくなって……
「Aは優しい子だから、僕のことを思って寂しいなんてこと、口に出せないだろう。1ヶ月もすれば沢山会えるようになるけれど…入校してから1ヶ月程は会えないから…」
見透かしたように俺の心をなんでもないよう言い当てて俺は心臓が跳ねる。確かに、1ヶ月会えないのは寂しいけど、見た目は小四、中身は高二の俺が我慢出来ないわけがないだろう。俺はそう快哉を叫びたかったが、それをこらえる。
『…俺を見くびるなよ。1ヶ月ぐらい簡単に耐えてやる』
「頼もしい。その言葉、信じるよ」
兄さんは俺に一人を強いるのが嫌だったのだろう。…俺は、"前"の世界でそんな兄さんを裏切るように組織に身を置いたのか。そして、それの報いのように殺されて、生まれ直したこの世界では兄さんに触れられると俺は心臓が冷えに冷えて、今にも死んでしまいそうな身体になった。
一度死んだはずの俺は理解する。この
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作者名:ちゅんこ | 作成日時:2021年4月2日 22時