わかってる話 ページ17
『…兄さん、俺が好きだっての覚えてて林檎持ってきてくれたのか…』
俺は"前"の馬鹿の量の林檎を蘭に料理してもらったことを思い出した。兄さんってば俺のことが本当に好きなんだな…としみじみ噛み締める。
「…覚えてる。Aの好きな物は覚えているし、初めて寝返りをうった日も初めて話した言葉も、全部覚えているよ…」
兄さんは林檎を擦りながら慈しい声でそう呟いた。
『…そっか』
俺は堪らなくなって窓の外を見る。病室からは米花町が見えて、俺はビルに反射した太陽の光に目を細めた。
「〜〜〜っ!俺は聞きてーことまだ聞けてねーのに甘い雰囲気振りまいてんじゃねーよ!」
「あっ……甘いってなんだよ!?兄弟だから普通だろ!?」
「ハギとヒロに聞いてみろ!お前らは普通の雰囲気じゃねーよ!兄弟ってのはもっと、こう…」
扉付近で壁に凭れて立っていたマツダが耐えられなくなって林檎をすり下ろす兄さんに向かって文句を叫ぶ。
「だいたい、俺は聞きてーことまだ聞けてねーんだけど」
兄さんがたじろいでも林檎を擦るのをやめないのを見てマツダは俺に怒りの矛先を向けた。
『あ、あ〜俺急に首痛くなってきた…あたたたた…死ぬかも…!うわー!』
首を抑えて精一杯痛そうな顔をする。流石に縫った箇所を抑えるにはまだ傷の治りが遅く、俺は反対側を抑える。それでも兄さんは血相を変えて林檎をほっぽりだして俺のベッドに駆け寄った。
「A!?医者を呼ぶから少しだけ耐えてくれ…!」
「どーみても仮病だろ…」
マツダは気づいているようだが兄さんはそれを無視してナースコールを押した。するとマツダは今は諦めた様子で「…めんどくせ」と呟いて兄さんに「先に出てるぞ」と声をかけて扉の外に出ていく。
「……僕もそろそろお暇するよ…。Aと離れるのは名残惜しいけれど…」
『…お医者さん来るまで待たないのか?』
俺はてっきり待ってくれると思っていたので面食らって兄さんを見上げる。
「また会えるからね」
兄さんは俺に顔を見せず、そっとナースコールのボタンを覆っていた手を退けると、ボタンが点灯していなかった。
そこで俺は初めて兄さんが俺が何か隠しているのに気がついて、マツダを追い払うためにナースコールを押すふりをしたことに気がついて扉の外に出ようとする兄さんに『待って!』と叫んだ。兄さんは振り向かずに動きを止める。
『…ごめん』
「アハハ、礼を言って欲しかったんだけどな」
兄さんは笑って出ていった。
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作者名:ちゅんこ | 作成日時:2021年4月2日 22時