生きてる話 ページ16
「A…!!!」
地面に落とされた俺の首に刺さったナイフを見て、兄さんはその異常性に気が付き蜷川さんに飛びかかる。人質を失った蜷川さんは暴れるも、若い、それも警察学校に通う生徒には叶わずあっという間に制圧される。兄さんは制圧してからも恨みの籠った顔で「Aに何をした!」と叫んで蜷川さんの顔目掛けて拳を突き立てた。一足遅く現場に到着した伊達がそれを止めて、俺の意識は遠のいていく…いつだったか、新一が言っていた気がする…血の出方が命を左右する…みたいな……たしか…じわじわと血が溢れるなら静脈性出血……俺のは心音に合わせてリズム良く血が出ている。抑えた手から血が溢れ出す。
「…動脈性出血か、救急車を。応急処置するぞ」
耳に懐かしいマツダの声を聞いたのが俺の最後の記憶だった………
………てっきり死んだと思ったが、生きていたらしい。俺の姿は残念ながら10歳のままだし、俺の首には縫い跡がある。兄さんに殺された辺りから夢であってくれと願い続けたが一向に醒めないので夢ではないし、俺は途方に暮れる。
「…なんで、俺の名前知ってたんだ」
俺が目覚めたことを看護婦に知らせようと思って、ナースコールを押そうと手を動かした時に、扉の影からくせ毛の男の黒髪が動くのが見えた。
『…なんの事だか』
マツダから目をそらす。流石にお前が一度死んだ世界から来た人間です。なんて言える訳もなく、俺は目を伏せた。
「バーロォ…俺を見て松田って…」
「…おい松田…!Aが目を覚まして…っ!?」
マツダが核心に迫りそうになった時、兄さんが病院の売店のビニール袋を引っ提げてマツダを押し退けて俺の病室に駆け込む。
『に、兄さん…!』
俺はもう少し会えないと思っていたので、改めて兄さんの姿を見て夢じゃないと驚いた。
「平気か?!A、二日も寝てて…」
兄さんが俺の手を掴む。俺は心臓が冷えに冷えて、ばっと兄さんの手を振り払った。兄さんはバツが悪そうに「…そうだったね」と苦笑いして手を後ろに隠した。それを見て、マツダが目を細める。
『…あ、俺こそ悪ぃ…。俺二日も…迷惑かけちまったな…優作さんにも謝らないと…』
「優作さんには僕から言っておいたから…これ、目が覚めたらと思ってAが好きな林檎を買ってきたんだ。今すりおろしてやるから待ってろ」
そういえば、すっかり忘れていたが、幼い頃は風邪が出た時はいつも兄さんがすりおろした林檎を強請っていたな。
140人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ちゅんこ | 作成日時:2021年4月2日 22時