助けられる話 ページ15
『で?しかしどこまで行くんだよ…俺の事殺すなよなあ。俺ぁやらなきゃ行けねーことがあるし…それに…』
それに既に私服の警官が俺たちを追ってるんだけどな。と言いかけて、俺に不利になるなと思い直して辞めた。
蜷川さんは俺への警戒心を既に無くしたようだが、俺と会話を続ける気は無いようで何も話さなかった。
軈て、人もまばらになった通りに差し掛かり静かさが嫌に俺の心音を強調した。
『俺、優作さんにお弁当渡しに来ただけなのになあ…てか優作さんお昼食って無くね?』
俺は不安をかき消すように口数が増えていく。そんな健気な俺の企みを潰すように人がどんどん少なくなる路地に蜷川さんは進んで行った。きっと蜷川さんは俺を殺す決心を固めているのだろう。
『なぁ…まじで話してくれよ…俺、怖いんだぜ?普通の十歳並…み…に………』
「…声がしたと思って見に来たら親子か…おい!関係ねーみてえだぞ。」
建物の影から黒髪の天然パーマの男がやる気なさそうな顔で俺達を見て帰って行った。俺はその男に見覚えがあって、大きく目を見開いた。
『ま………マツダ…』
時間が巻き戻るということは、生命の死はおろか、生きた証だって取消され、その時代のあるべき形に形容されてしまうということ…。俺は死んだはずのマツダを見て"巻き戻った"現状の、無垢でいくらでも真実なんて上書きできてしまうその危険な魅力に気がついた。
「……おい、そのガキ、今俺の名前を…?」
「ハハハ。君の聞き間違えだよ…。君って僕ら以外に友達とかいないだろ」
聞き覚えのある声にドクンと心臓が大きく波打つ。今は、来ないでくれ。兄さんへの罪滅ぼしの他にこの、巻き戻った世界への魅力に気がついてしまった俺を誰にも見られたくない。この世界へ俺が抱く意味に、他意を持ってしまった今。俺は兄さんに会えない。
『は、離せ…頼む、ここから逃げないと…』
暗くて狭い中で銃を腰に下げる男。その要素が俺のトラウマを刺激したのか、本当に顔向けできないから逃げたくなったのか混乱して分からない。ただ俺は人が来て逃げようとする蜷川さんの手から逃れようと足掻いた。ナイフが暴れた俺の首に音も立てずに突き刺さる。ナイフが刺さったのにも俺は気が付かないで蜷川さんの手を蹴った。建物の影から暗い道でもわかるアイボリーが僅かな光を反射した。
「………A………?」
兄さんの声が路地裏に谺して、俺の心音と混ざりあって俺の鼓膜を叩いた。
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作者名:ちゅんこ | 作成日時:2021年4月2日 22時