男装パンダは恋を忘れられない【沖田総悟】3

134、好きなものを好きになりたい ページ36

加藤がももさんを送り届ける途中まで見送って、漸く尾行は終了した。
二人とも最後までしっかり楽しんでいたようで何よりだった。

「あー、あいつら手も繋がねぇで終わりやがった」

茶屋で休憩しながら、今日の加藤の様子を少し話し合いしていたのだが、隊長はあの二人が手を繋がなかったことが気に入らないらしい。
加藤には難しいんじゃないかな……。

「…ま、目的は大分果たせた気がしやすしいいですがね」
「目的？」

尾行の他に何か目的があっただろうか。
なんて悩んでいると、隊長は笑ったあと私の額に指を押し当てた。

「よーく考えなせェ」

その様子に思わず視線を逸らしコーヒーに口をつけた。
…隊長の笑顔は、本当に心臓に悪い。

「A、約束忘れるなよ？」
「……敬語と、名前？」
「そ。今日一日出来たんだから、しっかり普段でもやりなせェ」

また難しい事を言うなあこの人…。
努力する、と一言呟いてコーヒーにまた口をつけた。

「ちなみに、今日乗った中で何か好きなもんあったか？」
「んー……」

元々騒がしいのが好きじゃないし、人混みも好きじゃない。
だから遊園地という場所自体に忌避感があるのだけれども。

「強いて言うなら…ジェットコースター楽しかったですね」
「へえ、意外」
「あの疾走感が面白かったです」

ジェットコースターのあの疾走感は楽しかったし、その時は風の音や絡繰りの音で騒がしい人の声も、人の多さも全然気にならなかった。
ただカツラが取れないかが少し心配だったけれど。

「次はカツラ付けない状態で楽しみたいって思うくらいは」
「そうかィ。じゃあ全部片付いたら一緒に行きやしょうぜ」
「…いいんですか？」
「敬語」
「あっ」

つい敬語を使ってしまった。

「勿論、Aが望むならいくらでも？」
「っ…そ、そんなに望まない」

ニヤリと笑った隊長の手元にあるみたらし団子に爪楊枝を刺して一つつまんだ。
相変わらず甘いが……食べれなくはない。うん。

「お、珍しい」
「……総悟の好きなものを一つくらい、オレも食べれるようになりたいし」

まだ甘くて一個しか食べれないけれど、そのうち美味しいと言えるようになれればなあなんて思う。
そう言えば隊長はちょっと驚いたような顔をしたあと、顔を隠してため息をついた。

「…反則だろ」
「ん…？？」
「畜生すげぇ悔しい」
「何が？？」

よくわからないけど、その様子が面白くて笑みがこぼれた。

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