くすり(紫) (ページ2)

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「失礼しま〜す、」

ある日、体調を崩して保健室のベッドで寝ていた私は新たな来訪者が来たことで目を覚ました。

「あれ、先生いないのか…どうしよ」

『…どうかしたの？』

彼がちょっと困った様子だったので思わず声をかける。

上履きの色から多分同い年。

「うおっ、びっくりした。…あー、体育で怪我しちゃったんだけど、手当の仕方わかんねえ、俺」

そういう彼の足元を見ると、なかなか派手に怪我しちゃってたみたいで。

『先生戻るまでに時間かかるみたいだから、…私でよければやろうか？』

そういうと彼は驚いてたみたいだけど、

じゃあお言葉に甘えてお願いします、

なんていって椅子に座るので、私も保健室の消毒セットを勝手に漁ることにした。

「寝てたみたいだったのにごめんね」

どしたの、体調悪いの？と初対面なのに心配そうな顔で聞いてくれる彼。

『ううん、それは全然。なんか頭痛くて…あっでも熱もあんまりないし多分大丈夫』

「そっか」

それなら良かったと笑う彼。

そこからは今体育やってたってことはB組？私D組なんだよね、なんて他愛もない話をしつつ、怪我の手当も終えて。

『はい、できたよ』

「わ、まじサンキュ！助かったわ〜」

「あ、そういえば俺深澤辰哉って言うんだけど、名前聞いてもいい？」

『…中川A』

「中川さんね！また会えたらお話しよ〜、じゃあありがと！体調お大事にね」

最後にしっかり私の体調まで気を使ってくれてから帰っていった。

滞在時間、きっと5分とかそれくらい。

それでもその5分は私にとって一生忘れられない5分になった。

この時はまだこの人にこれからどんどん惹かれていくだなんてそんなこと全然知らなくて、

ただ優しい人だなとぼんやり思っていただけだった。