間桐慎二 ページ4
僕は紛れもなく天才だった。何にも劣らない才と頭脳、容姿。全てが恵まれていた。
だが僕は努力を惜しまなかった。
誰にも負けぬように、誰の上にも立てるように、誰かの記憶に残るように。僕は有らぬ限りの努力をした。
そんな天才の僕には、昔から、ずっと気に食わない奴がいた。
馬鹿みたいに真面目で、お人好しで、頼み事や命令を一切断らない。誰に対しても、だ。
そう、誰に対しても。
僕が頼んでも、僕が命令しても、僕が押し付けても、昔なじみの男は何も不平不満を言わず、｢わかったよ、慎二｣とだけ言うのだ。
周りの人間に対するものと同じように。
気に食わなかった。何が気に食わない？そんなもの、口に出したくもない。憎たらしい、大嫌いだ、涙よりも先に悪態が口をついて出てくる。ボロボロ、ボロボロ、出ない涙の代わりかのように。ボロボロ、ボロボロ。
笑顔で、何も、言わずに、僕を見て、あいつは、あいつは。
部屋では学校の勉強と魔術の勉強をする。特にどうってことは無い。どちらも難しいことではない。理論上は、の話だが。
間桐の血筋は今や薄れ、ほとんど回路が通っていない状態だ。つまり、僕には魔術の才がこれんぽっちもない。小指の爪の先程もない。
むしゃくしゃした。どんなに努力をしても、僕は魔術師にだけはなれないのだ。
養子として引き取られた桜は、僕の妹になった。桜は僕の後をついてまわってきた。あの日々が愛おしくて、優しくて。
あいつは不器用だった。いつも包丁を握っては指を切り、走れば転び、喋れば詰まる。
その不器用さに、イライラしながらも、どこか安らぎを覚えた。それでも僕は許せなかった。そんな日々があっても、桜が当主として生きることがどうしても納得できなかった。
わかっている。僕にそんな力はないって。わかってるんだ。
｢兄さん、｣
｢黙ってろ人形！！僕は、僕は、どうしてお前が！！！！｣
｢兄さ、｣
｢黙ってろって言ってるだろ！！！！｣
怒鳴り散らして、抱き潰して、叩いて、嬲って、僕は、何を、していたのか。
もう、わからなかった。
誰かに救って欲しかった。
僕だけではもうどうにもできないところまで来ていた。
誰か、正義のヒーローなんて、呑気に掲げる馬鹿に、僕はただ、ただ一人の友達として、扱って欲しかっただけだった。
｢兄さん、ごめんなさい｣
義妹の声が、僕の頭に虚しく響く。
間桐の家に、僕達兄妹は閉じられているのだ。
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作者名：金魚屋 | 作成日時：2018年1月28日 14時
