エルキドゥ ページ1
僕が産まれた理由は、あの男を止める事だった。彼は人から愛されていて、どこか浮世離れしていた。それもそのはず、彼は神の血が半分以上入っている子どもだった。
僕は今でも思う。彼はきっと、神か人間だけの血ならばここまで苦労しなかったのだろうと。それでもこの考えを口に出すことは、彼への冒涜だと思った。
ある時から彼は一変した。何もかもが変わった。冷たく世を全て見通すような目と、何かを見定める姿勢。彼を取り巻く人間達は皆｢なぜこんなに変わられてしまったのだ｣と嘆いた。
彼を危惧していた神でさえ、まさかこうなるとは、なぜ。そんなことばかりだった。
誰も、彼自身や彼を見ていない。誰も見ようとはしない。
彼はあの時、裁定者になったのだ。
僕は見ていた。あの子を見ていた。愛される彼を、民への暴虐を働く彼を、全てを見るあの目を。合わさずとも、僕だけは見ていた。
僕は、僕の生まれてきた理由通りに彼と戦った。彼は最初こそ僕を煙たがるように戦っていたが、自分と同等の者だと認識すると忌々しそうに宝庫の中のものを使ってきた。そうして少しずつお互いの体力を削り合ううちに、どちらの口の端にも笑みがこぼれた。
どれくらい戦ったのか、どちらも限界であと一度殴り合えば死ぬだろう。そんな時にお互い地に伏せて大笑いしたのだ。なんと愚かしい、なんと馬鹿なものか。
ああそうだとも、人類最古の大馬鹿二人だ。
｢互いに残るは一手のみ。守りもないのであれば、愚かな死体が二つならぶだけだろうよ｣
彼がそういった真意は、僕には未だにわからない。引き分けで終わろう、と言ったのか、それとも残る死体は一つであるべきだ、と言いたかったのか。
どっちにしろ僕達は互角だった。僕は兵器で、彼は裁定者。こんなにも違うのに、こんなにも同じだ。
それからの日々は、駆け抜けていくようだった。
彼が選んだ道は、彼一人で進まねばならないものだった。それでも僕は、彼の盟友となったのだ。なってしまった。紛れもなく、それは、暖かな日々で。
愛しくて泣いてしまいそうな。
彼は度々、｢道具に心を与えるなぞ……｣と苦言を訂していた。最初こそ愚かな者のすること、なんて理由だと思っていたけれど、よくよく聞けば｢純粋な道具に我々人間が報いれるはずもない｣という、なんだか優しいような話だった。
暴君なのか優しいのか、いつも彼はわからない。盟友となっても、何になっても、彼を理解することはできないだろう
いつまでも、だ
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作者名：金魚屋 | 作成日時：2018年1月28日 14時
