【ハイキュー】彼は名前を呼ばせてくれない【男主】 (ページ15)

今日:7 hit、昨日:2 hit、合計:37,591 hit

１３話＊過去ページ15

・

＿＿かれらはその手足が弱々しく萎えているので、自分を善良だと信じているのだ＿＿

ドイツの哲学者、フリードリヒ・ニーチェの言葉だ。

力の足りない者は、力のある者に理不尽な仕打ちをし、それを正しいと信じて疑わない。

////

　『ライトッ！！』

中学３年生の頃の話。

全国行きを決める決勝戦。あと一点で、俺たちが勝つんだ。

俺は上がった体温を吐き出すように、大声で叫ぶ。

俺の頭の中には、俺の目の前に上がるボールとそれを相手のコートに叩きつける光景しか浮かんでいなかった。

だから、かな。

　『…え、』

一瞬、頭が真っ白になった。

トスは、俺には上がらなかったのだ。

１年が打ったスパイクはブロックに阻まれ、相手の得点に。

今の場面、ブロックは１年側にいたし、俺にあげるのが最善だったように思う。

「…あ、すいません！すいません！！」

「大丈夫、次だ次！」

必死に頭を下げる１年と、それを慰めるセッター。

そうだよ、こいつが正しいと思ったならそれでいいんだ。

指揮者であるセッターが、１年にあげるのがいいと思ったなら、それでいい。

俺の考えは、この際どうでもいい。

そう思えるほど、おれはセッターを信頼していたし、チームメイトを信じていた。

…んだけどな。

　『諦めずにいこうぜ、がんばろう』

「…はぁ？お前が言うなよ」

「お前には分かんないだろ！」

完全な拒絶。俺とチームメイトの間に、どうしても直せない溝があることに、俺はやっと気付いた。

「俺たちが点入れたって、周りはお前しか見てねぇんだよ！」

「…邪魔なんだよ」

信じているのは俺だけで、向こうは俺のことをずっと邪魔だと思ってたんだ。

「もうお前にはトスあげねぇから」

「ベンチでも温めとけよな」

案の定、監督に言われベンチに下がる。結局、その試合は敗北となった。

俺の記憶に残っているのは、

涙で濡らした目でこちらを憎らしそうに睨むチームメイトの顔と。

隣で、監督が呆れたように吐いたため息と。

観客席から注がれる同情の視線と。

・