73話 今更 ページ31
ナマエ「う、無咎さん大丈夫……？」
范無咎「……あぁ、すまない。嬉しくて」
声をかけると無咎さんは、笑ってくれた。
……あぁ、この人、本当に私のこと好いてくれてるのか。
今更だけど、それが分かってしまった。
范無咎「ありがとう、A。時間をかけてでも、俺に応えてくれて嬉しい」
ナマエ「……うん。私も、無咎さんが好きになってくれて嬉しいよ」
そう言うと、無咎さんは気まずそうに咳払いをして、右手を差し出してきた。
范無咎「では、これからは……恋仲、として……」
あ、そっか。無咎さんは私と好き同士になって、"恋仲"になることを望んでいるのか。
当たり前のことなのに、考えていなかった。まぁ喜んで受け入れるんですけどね。
私は左手を、無咎さんの右手と指を絡ませて、ギュと握る。
范無咎「！な、A……」
ナマエ「……へへ、よろしくね」
范無咎「……ッ、あぁ」
短く返事をしてくれたが、顔を背けられてしまった。えぇ……なんか駄目だった……？
そう思い左手を引っ込めようとするが、無咎さんにガッチリ握られて動かせなかった。えぇぇ……？？？()
范無咎「これは、大変だな……」
ナマエ「な、何が？」
范無咎「……いや、Aは気にしなくていい」
本当にどうしたの無咎さん。なんか嬉しそうだしいいのか……？
やっと気持ちを伝えられて一安心する。そっか、無咎さんと恋仲かぁ……
ナマエ「……私最初は本当に、荘園で皆に会えるだけで良かったんだよ」
無咎さんは私を見つめて、静かに聞いてくれる。
ナマエ「皆と仲良く、って欲張ってはいたけど。誰かと親友になったり、恋仲になったり、本当はそんなつもり無かった……って今更だね。」
まだそんなに経っていないはずなのに、何故か懐かしく感じた。その感覚に胸が締め付けられるが、何故か自然と笑みが溢れた。
范無咎「……つもり、なんて予定でしかないのだから、いくらでも変われるだろう。」
ナマエ「うん、分かってるんだけど……何故か今更思い出しちゃって」
范無咎「……Aは今、後悔してるか？」
無咎さんはそんなことを言うけれど……答えは分かりきっているんだろう、その瞳に不安は無かった。
ナマエ「……後悔なんてしてないよ。これからも絶対にできない」
范無咎「……そうか」
無咎さんは優しく微笑んで、私を抱きしめた。
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作者名：教六 | 作成日時：2023年4月5日 14時
