54話 狼狽 ページ12
突然無咎さんの口から出た言葉。
あまりにも優しい声で、真っ直ぐ自分を見つめながら言われたから、自分に対して言ったのかと思い込みそうになってしまう。
でも、いや、まさかそんな訳ない……と思い無咎さんを見ていると
范無咎「……ッちが……いや、違わないが……！」
焦って赤くなったり、青くなったりする無咎さん。
え、どういうこと……？
ナマエ「もしかして私への仕返し？いつもしつこく愛を叫ぶから……」
混乱で頬が引きつっているのを感じるが、そう聞いてみる。
すると無咎さんは口を開くが、一瞬戸惑い……決心したように私の目を見つめてくる。今まで見たことがない、私の知らない感情を孕んだ、熱い瞳を向けて。
范無咎「……Aが言う"好き"とは違うんだ！俺は……」
ナマエ「えっと……え？」
范無咎「……すまない、A」
ナマエ「は、はい……！？」
無咎さんは席を立ち、私の隣まで来て跪く。小さく息を吐いて、ほんのり赤い顔を隠さず私と向かい合った。
范無咎「君が好きだ。」
ナマエ「……は、い？？」
呼吸の仕方を忘れた一瞬の間、それから一気に顔が熱くなる。
范無咎「さっき言った通り、君が友に向けているモノとは違うんだ。」
ナマエ「へ、あの……えっいや」
范無咎「勿論、受け入れられなければ拒絶してくれて構わない……だからどうか、返事を聞かせてくれないか。」
優しい言葉を選んでくれているが、渇望の視線を向けられて顔を背けてしまう。
無咎さんと目が合わせられない。さっきまで私はどうやって話してた？息をしてるのに胸が苦しい。
どうしよう……どうしようどうしよう！？
パニック状態のまま勢いよく立ち上がってしまった。
無咎さんは一瞬驚くが、私が口を開くのをじっと見つめ待っている。
ナマエ「……っあ、の……か、考える時間、貰えま……せんか……！」
范無咎「ああ、勿論だ。……困らせてしまってすまない」
無咎さんは素直に引き下がり、私は焦ってホールを飛び出した。
これは、夢か何かじゃないのか。
あの無咎さんが赤面して、跪いて……私に好きだなんて。あんな愛おしげな瞳で見つめてくるなんて！
不安と困惑で小走りで独り言を溢してしまう。
ナマエ「おかしい……こんなの絶対に……ってぇぇ！？」
ヴィオ「きゃあっ！？」
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作者名：教六 | 作成日時：2023年4月5日 14時
