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三射 ページ4

𑁍




「−−まずは経験者による射義を見てもらおうかのう」





そこの鳴宮湊くんと華峯Aさん、ちょっと引いてみてくれんか?





あの後、竹早に名前を呼ばれたせいで射場にいる人たち全員からの視線を受けた私はプリントを森岡先生に渡すというミッションがあるせいで射場から出るにも出られず、後ろの方で森岡先生の話を聞いていた。
真面目に聞くわけでもなく、殆ど聞き流していた私の耳に飛び込んできたのは一言で言えば面倒なことだった。
断ろうと下げていた視線を上げて森岡先生を見たらパチパチと音を立てる拍手に顔を引き攣らせる。
……もしかして、顔を上げた=了承した、なんていう方程式でも成り立たせているのだろうか。

あーあ、ど う し て こ う な っ た

私の周りには拍手をする生徒達。この場から逃げようと扉を見たら弓道部らしき後輩から話しかけられてしまった。




「先輩、どの矢を使いますか?」


「……えっと、私は遠慮し」


「私のじゃちょっと短いですね!! ちょっと妹尾の矢で合わせてみましょう!」




話を聞いて!? 矢を合わせてくれた女の子は『妹尾』さん? から矢を借りてくれるらしい。
親切な子だな、でも出来れば話を聞いてほしかった……




「妹尾〜! 矢貸して!」


「ゆうな、これ」


「ありがと〜!」




矢を人に貸していいの…? 人に使わせるの嫌じゃないの…!? ダメだ、ツッコむところが多すぎて話にならない…
軽く頭痛を覚えながら渋々女の子−−ゆうなと言うらしい−−が持ってきてくれた妹尾さんの矢を合わせる。




「ん! 丁度いいですね〜!」


「あー、うん…ありがと」


「いえいえ! そうだ、自己紹介しておきますね! 一年の花沢ゆうなです!」


「ご丁寧にありがとう…私は二年の華峯 Aです。」


「よろしくお願いしますね!」




先輩の弓を引くの、楽しみにしてます! そう言って笑った花沢さんに笑い返しながら、ここからの脱走方法を考えていると、次は妹尾さんが体操服を持ってやってきた。




「これ、私のですけど…よかったら使ってください。弽はどれにしますか?」


「あー…教室に体操服とかあるから、持ってきてもいいかな」


「わかりました、待ってます」


「…はーい、じゃあいってきます」


「華峯先輩!」


「………なぁに、竹早くん」


「逃げないでくださいね」




にっこり。そんな効果音がついている笑顔を前に、私の逃亡は阻止された。










𑁍

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作者名:冬葵 | 作成日時:2023年4月10日 13時

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