想い≠距離(弟)01 ページ33
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なんでこんなことになったのだろう。
｢どうぞ、中入って｣
｢あっ…お邪魔、します｣
Aさんはそう言うと両手でキャリーケースを持ち上げて俺の家に入る。
それに続くよう自分も家に入ると、背後で鉄製のマンション扉がガチャッと重い音と共に閉まった。
今夜、好きな人が俺の家に泊まることになった。
きっかけは1時間程前のこと。
仕事が終わって俺はいつもの帰り道を歩いていた。
今日の晩御飯は何にしようか、なんて考えながら何気なく横を向くとそこはよく休憩中に行くカフェで、窓ガラス越しに見える店内の中に会社の同期であり想い人のAさんを見つけて俺は足を止めた。
(Aさん！？ でもあれ？ なんで…)
彼女を見た俺は心臓が嬉しさで跳ねるのを感じたのと同時に何故彼女がここにいるのかという疑問が浮かんだ。
何故なら彼女はこの前転勤することが決まり、既に転勤先に引っ越したものだと思っていたからだ。
(声をかけるチャンスかも)
そう思った俺はカフェの中に入って彼女が座っている席に近付いて声を掛けると、彼女は俺の顔を見るやいなや、びっくりした表情をした。
｢弟者くん！？ お、お疲れ様｣
｢お疲れ。 てっきりもう引っ越したのかと思ってたんだけど…｣
｢実はついさっき住んでいたマンションを引渡したところなの。 引っ越し先には明日の朝行く予定｣
｢えっ、じゃあ今日の夜は…｣
そう言いかけた俺は、Aさんの足元にあるキャリーケースが視界に入る。
｢本当はこっちに住んでる友達の家に泊めてもらう予定だったんだけど、向こうが風邪を引いちゃったみたいで…だからここでちょっと時間を潰しながらホテルを探してるんだ｣
｢そうだったんだ。 ホテルは見つかった？｣
｢んー…当日に予約なくても入れる場所があっても良いと思うんだけど、今日に限って埋まってたり、空いてても結構なお値段のするところだったりで中々見つからなくて…｣
最悪ネカフェかなぁ、と苦笑いするAさん。
そんな彼女に俺は咄嗟にこう言ってしまった。
｢良かったら、俺の家に泊まる？｣
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作者名：くろいつき | 作成日時：2020年4月15日 0時
