30 ページ30
チーノが真剣に謝っていることは、声を聞けばわかる
彼が私を、大事に思ってくれていたことも、今思い返せば嫌というほど心当たりがある
どれだけ残酷に、彼を傷つけてきたかもわかる
それでも、
『今日、シャオロンさんのとこに泊めてもらうから、
ご飯いらないっておばあちゃんに言っといて…』
どうしても、チーノの横で笑うことができない
ずっと一緒にいた彼が初めて見せた男の顔が別人みたいで、
私はチーノの目を見れないでいた
バイト中はトントンさんが気をつかってくれたのか、チーノが客引きでほとんど店にいない
寂しさが太陽に焼かれて焦げてしまいそうなのに、鎖骨に残った噛み痕がズキっと痛んで邪魔をする
『シャオロンさん、今日、泊めてもらってもいいです、か…？』
「…チーノんとこ帰らんでええんか？あいつは一緒に帰りたいんちゃうん？」
『ご迷惑なのは、わかってます。でも、どうしても…』
「まあ、あいつの言うこと聞いたる義理ないか。」と零したシャオロンさんは私の手をとった
後ろからぽたりと、水が地面に落ちる音が聞こえた気がするけど、海の近くでは珍しいことじゃない
「ほんなら帰ろっか。晩飯何がええ？コンビニ弁当から選ばしたるわ」
いつもは自転車で颯爽と帰っていくのに、今日は私のペースに合わせてサンダルを地面に擦る
目をみて話してくれる檸檬色は相も変わらず、おひさまみたいに眩しい
その明るさで、私の影を埋めてしまえば、
月光の差し込む静かな空間に、布ずれの音がよく目立った
「…ほんまに、エエの？」
『お願いします、大人に、してください。』
「もう戻られへんねんで？相手、俺でええんか？」
『一生に一度だから。大好きなシャオロンさんが、いいんです。』
「…ただのナンパ男やのに。」
肩をゆっくり押されて、ベッドのスプリングが軋む
「優しくとか、期待せんでな。」
そう言ったわりに、彼はいやになるくらい優しく甘く私を溶かした
シャオロンさんの熱は、傷もモヤモヤも全部埋めてくれる
まるで恋人にするみたいに、嬉しそうに目を細めてキスをするから
夏のたった一晩でも、仮初の恋人になれたんじゃないかと錯覚する
初めて抱かれた男の人は
初恋の、甘酸っぱさまでも瞳に宿したカッコいい彼。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 12人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
桜花(プロフ) - 急にコメントすみません。最初から最後までドキドキしっぱなしで、最後めっちゃ感動しました、、！！控えめに言って最高すぎる作品です、、、出会えてよかったです。最高に素晴らしい作品に出会わせてくれて本当にありがとうございました！！ (2020年10月12日 2時) (
レス) id: 5ecfd5bd4f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：レック | 作成日時：2020年8月6日 12時
