131 ページ31
とても静かだった
俺がここにやって来てから1番、静かだった
頭に響く声で笑う先輩も、内ゲバの戦闘を始める人たちも、それを粛清する書記長も、突拍子もなく碌でもないことを言い出す総統も、汗をかいて訓練をする兵もいない。
防衛に残された半部隊の兵と、使用人と、俺と、声を出さないAさん
それがこの城に残された全てだった
神の軍医は今頃戦場の救護テントで手を尽くしているだろう
てっきり残ってAさんを看るのかと思っていたが、彼は心の底から辛そうな声で言った。｢もう、俺に出来ることはないんだよ｣と。
彼女を救えずに苦しんでいるのは、あの人も同じだ
コネシマさんに見破られた左足は、骨に少しヒビが入っていた。多分ゾムさんが暴走して慌てて木から飛び降りた時に感じた衝撃が原因だろう。一刻も早く治して戦力に加わりたい反面、話せなくてもずっとAさんの傍に居たかった
｢俺があの女狙撃できてたら、こんなことにはならんかったんすかね…｣
返事はない
｢わかってます、こんな後悔意味無いって。でも、皆してるんすよ？いつもの戦争の時と目が違うっていうか。いつもは楽しそうに騒いどんのに、今回はなんか血走ってて、自分への怒りも無理矢理外に向けてるんやと思います。｣
彼女は穏やかな寝息をたてるだけだ
日中、時間を見つけてはこうして彼女のベッドを訪れ話しかけている。いつかの大先生のように。
さすがに幹部がほぼ全員いない城の管理は大変で、あまり来れてないけど
｢Aさんが木から落ちかけた時に、お礼にクッキーくれたでしょ？あん時、自分と大先生比べて勝手に凹んでた時期やって、“俺”がAさんの力になれたってわかって、笑った顔みたら良い意味で力抜けたんす。｣
だから、狙撃の腕も近接の腕も両方磨くことが出来た。俺だけのバランスを探し始められた
だから、彼女を大切に思うようになった
同じ所に血が溜まってしまわないように、そっとAさんの体勢を変える
その時、パタリと、腕がベッドから落ちた
白くて細くて…拷問の痕が残る腕
それが俺の無力感をさらに煽り立てる
｢Aさん、お願いやから…｣
空っぽの自分の手のひらを見つめた
もし１つだけ、この手で掴めるものがあるなら、
夢の世界からこちらに伸ばされた、貴女の手であってほしい
｢早く、目覚ましてください｣
そう願いながら、彼女の腕を布団の中へ戻す
Aさんの瞼はピクリとも動かない
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 816人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
まち(プロフ) - 初めまして、1話したのかと目から読ませていただき、完結までお疲れ様でした。とても素敵な作品に出逢えたこと、心から嬉しく思います。素敵な作品をありがとうございました。 (2020年7月30日 3時) (
レス) id: 9b1209b0b8 (このIDを非表示/違反報告)
ノア(プロフ) - こんにちは！あまりの面白さに思わず一気読みしてしまうほどでした!!!!!!!こんなに幸せで素敵なお話を読めてとても嬉しいです！ありがとうございます！ (2020年3月11日 14時) (レス) id: c0349a147b (このIDを非表示/違反報告)
カラ - とても面白かったです。久しぶりに夢中になって読みました。素敵な作品をありがとうございます！ (2020年2月5日 20時) (レス) id: 4407d2bed4 (このIDを非表示/違反報告)
1 - あれ？HappyENDって、こんなに泣けるもんだったっけ？ って、半泣きで最後まで読ませて頂きました。とても良い作品でした。 (2020年1月11日 17時) (レス) id: 3bc86cc6f5 (このIDを非表示/違反報告)
レック(プロフ) - すみれいんさん» 度々感想の方お聞かせ頂きありがとうございます！何度も楽しんでいただけているようで本当に嬉しいです。先の展開を知らないと気付かない伏線もたくさんはっておりますので、是非また、新しい笑顔をお見せいただけたらなぁと思います。 (2020年1月9日 9時) (レス) id: a402dc079e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：レック | 作成日時：2019年9月13日 0時
