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風が吹いた
最近の気候にしてはやけに冷たい風が
Aは寒くないだろうか
そう思い隣を見ると、辛そうに眉をしかめる姿があった
その手はもう片方の腕を掴んでいる
…あそこは、特に大きな刺傷があったところか
気付けば抱き締めていた
その存在を守ってやりたかった
なぜ心配をかけまいとするんだ、痛いなら、辛いなら、そう言えばいい。お前の全てを、俺は知っていたい。
そう言いかけて止めた。今の俺にそんなことを言う資格はない。
『ほんとにどうしたんですか?』
「…髪を、撫でる風に嫉妬しただけだ」
ああ、嫉妬もするさ。空気をあてるだけでお前の意識も痛覚も独占してしまう、この場所自体が忌々しい。袖の下に隠れる傷跡はAをここに縛り付ける。今日、その鎖を切るのだ。彼女の柔肌に痕跡を残していいのは俺だけで、居場所は総統室でなければならない。
そんな俺の気持ちも知らず、Aは護衛2人の心配をしている。仕事となればうちの幹部以上に頼れる者などいない。それぞれが有能で、突出した技能を持っている。そういう意味でも、Aは俺に必要だ。菓子作りで彼女の右に出る者は未だ現れない。いたとしてももう離すつもりはないが。
少しは気が紛れたようで、Aがしきりにキョロキョロすることもなくなった
そしてそろそろ約束の時間、というところで複数の足音が聞こえる
おかしい。相手も2人だけのはずだが、聞こえる音は明らかに多い。
音の方向をじっと睨むと、想像より多い数の人間が現れた。そしてその軍服は…
「おや、これはこれは。アレーネの皆様が一体どのようなご用件で?」
圧するように声を出すと、先頭の兵士は肩を震わせる。統率がなってないな。
「総統閣下、誤解なさらないで頂きたい。ここは我らの緩衝地帯。滞りなく両国の会談が行われるよう、護衛に参ったのみにございます。」
「ほう、それは殊勝なことだ。では、こちらに事前の連絡がなかったことは何かの手違いですかな?」
“会談”などという穏やかなものではないことは、オスマンの口からもラドバンの方からも伝わっているはずだ。そこにこの態度で一隊分の人員を連れてくるのだから、こいつらは護衛ではなく監視だろう。アレーネはラドバン側についたということか。ああ、宣戦通知書を一通増やさねばな。
「おや、皆様お揃いで」
そしてそこに、滅ぼす国の刻紋を付けた最後の役者が登場する
地面は夕日で紅く染まっていた
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まち(プロフ) - 初めまして、1話したのかと目から読ませていただき、完結までお疲れ様でした。とても素敵な作品に出逢えたこと、心から嬉しく思います。素敵な作品をありがとうございました。 (2020年7月30日 3時) (レス) id: 9b1209b0b8 (このIDを非表示/違反報告)
ノア(プロフ) - こんにちは!あまりの面白さに思わず一気読みしてしまうほどでした!!!!!!!こんなに幸せで素敵なお話を読めてとても嬉しいです!ありがとうございます! (2020年3月11日 14時) (レス) id: c0349a147b (このIDを非表示/違反報告)
カラ - とても面白かったです。久しぶりに夢中になって読みました。素敵な作品をありがとうございます! (2020年2月5日 20時) (レス) id: 4407d2bed4 (このIDを非表示/違反報告)
1 - あれ?HappyENDって、こんなに泣けるもんだったっけ? って、半泣きで最後まで読ませて頂きました。とても良い作品でした。 (2020年1月11日 17時) (レス) id: 3bc86cc6f5 (このIDを非表示/違反報告)
レック(プロフ) - すみれいんさん» 度々感想の方お聞かせ頂きありがとうございます!何度も楽しんでいただけているようで本当に嬉しいです。先の展開を知らないと気付かない伏線もたくさんはっておりますので、是非また、新しい笑顔をお見せいただけたらなぁと思います。 (2020年1月9日 9時) (レス) id: a402dc079e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:レック | 作成日時:2019年9月13日 0時