総統室のパティシエ【2】

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幹部6日目

｢先に言っとくけど、Aちゃんが謝ることはあらへんよ。あれは僕のエゴやったんやし。Aちゃんなりに思う所があって幹部の話受けたんやろ？やったら僕はそれを尊重する。…だからそんな悲しい顔せんで？｣

訓練場で出会い、挨拶と重い沈黙の後に彼はこう言った。彼は唯一私に直接｢幹部になってほしくない｣と言ってきた人だ

『でも、折角大先生が私のことを考えてくださったのに…』

私より私の為を思ってくれたからこそ、その気持ちを無視する形になったのが辛い
しかし彼は首を横に振る

｢やからあれは僕のエゴやって。Aちゃんが強なりたいんやったら、僕もそれを手伝う。この言葉は本意やで？｣

確かにその真っ直ぐな瞳は揺るがない。彼は何故こんなにも、優しさが根にある強さを持てるのかと、少し羨ましくなった

｢んで、昨日ゾムさんやろ？何やったん？｣

他3人の訓練内容は既に共有されているようだが、正直1番説明したくないのがゾムさんだ
彼の訓練は生々しく実践的だった。人間の急所、肌に刃を立てる角度、後ろに立つ人間を殺す方法。修得には程遠い私でも使う事を躊躇うものが沢山。
｢Aちゃんの手を汚したくない｣と言っていた大先生に伝えるのは苦しかった

しかし

｢ふ〜ん、ゾムさんらしいなぁ。｣

彼は案外ドライな反応で、更に準備された荷物から黒く鈍い光を反射する物体を取り出した

｢じゃあ僕はこっちかなぁ。Aちゃん拳銃撃ったことある？｣
『……ないです』
｢あ、やっぱ僕がこういう訓練すんの意外？｣

へらっと笑う大先生はいつも通りで、先程の重い空気など欠片も残っていない

｢Aちゃんに汚いことはさせたくない。でもやっぱり君が傷つくんは絶対嫌やから。だから…、Aちゃんが傷つかん為に使って？｣

渡された黒い塊。大先生はそれを使って相手の動きを止める方法や、命に関わらないが確実に動けなくする急所を教えてくれた

｢あと絶対慣れるまで片手で撃つとか構え崩すとかしたあかんよ？｣
『そうなんですか？』
｢うちの奴らはアホみたいに撃つけど、銃の反動って凄いんやで？Aちゃんみたいな子が崩して撃ったら脱臼してまうわ。｣

そう言って構え方を教える大先生は、訓練が終わったあと何気なく銃声を響かせた

片手で煙草を吸いながらもう片方の手で撃たれた銃弾は、的の真ん中へと吸い込まれていく





いつか、彼が前線から退いた理由を聞けるだろうか

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