アスファルトに焦がれて (ページ4)

今日:2 hit、昨日:0 hit、合計:379 hit

4 ページ4

取り急ぎ部屋に水槽を設置する
貯めていたお年玉は水泡に帰した
フィルター付きのエアポンプがごぽごぽと泡を吐き出しているのを見てなんとも言えない気持ちになる

『水槽、小さいかな。塩ってどれくらいいれればいいの…？』

ポンプの微弱な水流にすら抵抗せずゆらゆらと水中を漂う人魚を前に四苦八苦しているとキョロリとその目がこちらを向いた

『え、なに…？』

気だるげな物思いを紫に浮かべて、私の手にある塩袋を見る
そして目線をこちらに戻すと、口からベッと舌を出して眉をしかめた

『舌、赤いんだね、』

きっとそういうことを伝えたいんではないんだろうけども、思わず零れた感想に対しスッと目が細まる。例え種族が違ってもそれは貶されていることが明確にわかるようなもので

『今バカにした！？バカにしたでしょ！！』

果たして息をしているのかはわからないが、確かに肩を落として大袈裟な溜息をつかれた
なんだこいつ。

『というか、言葉、わかるの……！？』

一秒程の間、挟まる波の音

コクン、と

確かに首を縦に振った彼はただ無感情に私を見つめていた。

『うそ、すごい！人魚って日本語わかるんだ！え？君人魚だよね？』

ベッドのサイドテーブルを占領した水槽に張り付いて質問をしても、今度は面倒くさそうに水槽の中を探索し始める。砂と一応の水草とそれっぽい家のような大きめのミニチュアが設置された、高校生のお財布にしては精一杯の住居だ。
そもそも海に還した方がよかったのかもしれないけど、ここまで準備してしまったからには多少はうちにいて欲しいというか。

なにより

『綺麗、だよね、君…』

夏の海で見つけたとは思えないくらい白い肌
よくわからない薄っぺらい布を纏った上半身と
水色から淡い紫を経て尾に近付くにつれ濃くなる紫の鱗
くしゃりと毛先がうねる癖っ毛は茶色で
薄い唇には少しの色が乗っている
何より、その目の奥の何かが私を惹きつけて離さなかった

「A～！ご飯よ！」
『あ、はーい！』

リビングから呼ばれて名残惜しくも部屋を出る
そういえば彼のご飯、どうしよう

『いただきます』

［次のニュースです。本日昼過ぎ、××港沿岸で女性の惨殺死体が発見されました］

「あら、ここすぐ近くのところじゃない。怖いわね。」
「A、当分一人で行くんじゃないぞ」
『はーい。』

両親の会話を聞き流して考えるのは勿論彼の食事だ。
そういえば、舌を出した時に見えた歯、やけに鋭かったな。
何を食べるんだろうか。