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「ねぇ。これ、本当に貰っていいの……?」
「ん? ああ、そりゃ勿論」
そう言いながら不安げに眉根を寄せて、羽鳥の上半身程もある大きなくまを強く抱き締めた。顔がほとんどくまの頭に埋まっていて見えない。そんなところも可愛らしいので、僅かに見えるつむじを優しく撫でた。
デートの途中で寄ったゲームセンターで取ったクマのぬいぐるみを、本当に貰っていいのか気にしているらしい。三ツ谷は先程から何度も「俺が持って帰っても仕方が無いから」と言っているのだが、決して安くない買い物だったため不安なようだ。
「それに俺はさ、それ、Aのために取ったんだけど?」
「……じゃあ、もらうね。ありがとう」
「はい、どういたしまして」
難しい顔をしながらくまに顔を埋めた羽鳥の頭をもう一度撫でて、手を下ろす。両手でくまを抱いているため手を繋げないのが残念だ。だが代わりに持とうかと聞いてもすっかりくまを気に入ったらしい羽鳥が手放そうとしないので、仕方なくポケットにしまった。
楽しかった一日も、終わろうとしていた。時刻は五時を回って、そろそろ日が暮れてしまう。
三ツ谷としては暗くなる前に羽鳥を自宅まで送り届けたかった。しかし実際羽鳥の家が近づいてくると、どうしようもなく別れ難い気持ちになる。
今日別れても、明後日また学校で会える。けれど合間の一日ですらもどかしい。恋とはまるで病だと、女々しい脳内を自嘲した。
なるべくゆっくり歩いた帰路も、遂に終わりが来てしまう。小さな集合住宅の前で、二人は静かに向き合った。
「それじゃあ、また学校でな」
「……うん」
三ツ谷も当然離れ難いと思っているが、それ以上に羽鳥は三ツ谷の告げた別れの挨拶に寂しげに瞳を揺らした。まだ一緒にいたいと、瞳が雄弁に物語っている。
名残惜しいが、黙っているともっと離れたく無くなる。三ツ谷が踵を返すと、その服の裾を小さく引かれた。
「……ね、もうちょっとだけ、一緒にいたい……だめ?」
「っ、……ダメ、じゃないけど、外はもう暗くなるし危ないぞ」
「うちに、来ればいいよ」
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綾鷹(プロフ) - どハマり中の作品!更新頑張ってください!!応援してます!!! (2021年8月17日 12時) (レス) id: 1e5c1477e1 (このIDを非表示/違反報告)
おかかのおにぎり(プロフ) - 初コメ失礼致します。すごく素敵な作品に出会えて大感激です…!三ツ谷のかっこよさと可愛さが全面に押し出されててめっちゃ好きです、、、これからも更新応援してます! (2021年8月17日 8時) (レス) id: bb984743a2 (このIDを非表示/違反報告)
まつあい(プロフ) - めちゃくちゃ好きです…泣 (2021年8月17日 5時) (レス) id: 616babd1d8 (このIDを非表示/違反報告)
愛月咲良(プロフ) - この作品に会えた事を感謝します… (2021年8月17日 4時) (レス) id: 4a6d894003 (このIDを非表示/違反報告)
あまね(プロフ) - 待ってなんでこの神作に早く出会わなかったの?私バカなの?((((喧しいわ (2021年8月17日 1時) (レス) id: 1a6dd63888 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:金蔓ゆるり | 作成日時:2021年8月16日 5時