Moon Lady (ページ9)

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Episode 7 【Laurence】ページ9

時間が流れるのはあっという間だ。気付けば予告の時間まであと二十分。散々弄ばれた人形＿＿つまり自身は、邪魔だという理由で美術館の端に追い出された。

「お嬢様、大丈夫ですか？」

　そう考えていれば、つい眉間にしわが寄ってしまったのだろう。メイドが心配そうに此方を見ている。慌ててまた、笑顔を繕った。「大丈夫よ」

「それなら良かったです。…、安心して下さいませ、お嬢様。もし万が一、怪盗がお嬢様の近くに来たとしても、この倉木がお嬢様をお守り致しますから！」

私のその“顔”を不安が理由だと取ったのか、メイド＿＿否、倉木はそう言って笑ってみせる。手が震えてるわよ、なんて間違っても言えなかった。

「有難う。でも大丈夫よ、私も護身術は一通り学んでいるから。艶やかに撃退してみせるわ」

　そう返して、メイドを安心させる。ついでに、水を持ってくる、と嘘をついて、メイドから離れた。予告時間、そんなものは元から興味はあまりない。怪盗は、宝石しか盗まないのだろうから。

「ったく、どいつもこいつも、口を開けば面白くない自慢ばかり。戯れで付き合ってみれば、直ぐに調子に乗って…あれじゃ丹波の名に涎を垂らしてる獣よ」

　外に出てみれば、直ぐに唇から言葉が漏れた。綺麗な月の下、毒を吐く女がひとり。全く可愛くない、とは思う。自嘲の笑みを浮かべる。

皆、必要としているのは丹波の名。別に私自身を欲しがる人間なんてそう居ないのだろう。倉木だって、当主と仲良くなりたいだけかも知れない。

「…、駄目な主ね」

　首を振って、倉木を疑う自身を咎める。けれど、一度浮かんだ疑惑は止まることなく。誰かの足音が聞こえ、無理矢理に思考を停止させられるまで続いた。

「やあ、ご令嬢。こんなところで月見かい？」

青い蝶ネクタイが大変似合わない、名も知らぬ男。この人もまた、涎を垂らす獣のひとりであろう。なんだかそう思うと、少し笑えてくる。

微笑みを携えて、私は聞いた。

「誰かしら」